中東アニメ訪問記①〜ヨルダン:アラブ随一の漫画書店と、アニメを通じた中東和平の可能性

2016年8月16日、中東ヨルダンの首都アンマンにて。
丘々をびっしりと埋め尽くす土色の四角い建物群。無数に開いた真っ黒な窓。
コンピュータシミュレーションで作られたフラクタル構造のようにも思える、幾何学的な砂漠の街の姿。
その足下のダウンタウンで、私はヨルダン最大のオンラインアニメファンクラブ「Anime Lovers in Jordan」のリーダー、Modarさんと会った。
(日本語はスクロールダウン)

On August 16th, 2016. I was in Amman, Jordan to meet with the person in charge of the Online Anime Community called “Anime Lovers in Jordan” and visit an only manga book store in the country.

*Sorry it’s written only in Japanese. But here is a summary of what I wrote in this blog post.
I got so impressed by how they are passionate about anime, not only as an entertainment but as a tool to open people’s mind to something new, and I was also amazed at all their efforts to make the safe environment for anime fans and appeal the local market opportunity to Japanese anime companies.

This visit also made me want to somehow help solve Israeli–Palestinian conflict with anime or culture in general.
I know anime is so powerless to stop the war (which often caused by politics) but I think it can at least do something to prevent massacre caused by human’s hatred, by building connection and mutual understanding between people who share the love toward same stuff.

The person I met in Jordan, who is the organizer of the anime con there, said that he cannot fully feel comfortable towards Israel as a country, but he feels like making friends with the anime fans in Israel.

I have nicest friends both in Israel and Jordan.
I wish, someday, the anime con where all people regardless of race, religion, country can gather one place is going to be held.

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丘の連なるアンマンの街並み

私の泊まるアンマンの安宿「Boutique Hotel Amman」まで迎えに来てくれたModarさんの車で、同国唯一の漫画書店「WIDE:SCREEN」に向かう車中、ヨルダンという国、またそこでのアニメ事情について聞いた。

「ヨルダンは、中東の中では比較的自由な国だ。中東で唯一石油の取れない国だから、その分技術革新を進め、オープンな国にする必要があったんだ。
検閲も他の国に比べて緩い。だから、サウジアラビアやUAEから、ヨルダンの書店にわざわざ望みの漫画を買いにくる人もいる」

Modarさんは言う。

「とはいっても、ヨルダンの人々はまだ保守的だ。新しいもの―それはアニメを含むのだけど―に対して、アレルギーを持っている。けれど僕は、アニメがそうした新しいものへの窓口であって欲しい

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アンマン旧市街のバザール

「自分達は、アニメを愛しているということで、もしかしたら社会から攻撃を受けることがあるかもしれない。攻撃されてからでは遅いんだ。だから今、自分達は正しいことをしているのだと胸を張って言えるように、戦略的に、日本文化紹介の放映会などだけでなく、チャリティー活動などを行っている。自分達は正しいものを愛しているのだと、示すためにね」

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アンマンの裏路地

ヨルダンのオンラインアニメクラブ「Anime Lovers in Jordan(以下ALJ)」は、Facebook上での非公開のグループだ。
(非公開なのは、そこに加盟していることで、メンバーが周囲から攻撃されるのを防ぐため。オープンとはいっても、アニメにはまだ偏見がある。)
登録者は、2016年9月現在、約4500人に上る。
ヨルダンの人々は、日常生活で使うのはアラビア語だが、英語を流暢に操り、ALJ上での会話も、主に英語で行われる。

★Anime Lovers in Jordanの公式ページでの団体説明文(原文も英語)
“The official group for Anime fans in Jordan.

Whether you are a hardcore “Otaku” with tons of Manga books in your room and hundreds of Gigabytes of Anime on your hard-disk, or just an occasional anime watcher, You are welcome here!

In Jordan, Anime has spread widely all over the country for the past couple of years, among people with ALL AGES.

This group is created for you to express your love of not only anime, but the whole Japanese culture, check out pictures, make comments, watch videos, discuss, get the latest news, upload photos and videos, share your opinion with us, get links to the latest anime shows and Japanese language learning links, and more!”

公式ページには、団体の目指すゴールも書かれている。

★公式ページ上に掲げられたグループの目標(原文も英語)
Our Goals:

1) Spread Anime and Japanese culture.
2) Create an open minded way of thinking in Jordan.
3) Support anyone with Anime-Related ideas in Jordan.
4) Do fun events; contests/movies/discussions, etc.
5) Hold group meetings so the members can meet each other in person to discuss, exchange Anime/Manga, suggest new ideas to improve the group and the Japanese/Anime community in Jordan (All suggestions are welcome)

Modarさん自身は、元々このグループのメンバーの一人だったのが、段々と、ただ楽しむだけでなく、他のファンがオタクライフをヨルダンでより楽しめる環境を構築したいとの思いを持つようになり、運営に回ったという。
現在この団体の運営は、Modarさんともう一人の女性Mahaさんが担っている。

「自分達の今の一番のチャレンジは、ヨルダンでのアニメイベントをより大きくすることだ」
Modarさんは語る。

「ヨルダンではこれまで8回のアニメイベントを開いてきたが、それは全てファンの集まりに過ぎなかった。今年が初めての、正式なAnime Conventionの開催となる」

400人が参加したという昨年のイベントの写真を見せながら、Modarさんは続けた。

ALJ meeting

ALJのメンバーギャザリングの写真

「自分達はなぜアニメイベントを開くのか。開かなければならないのか。それは、自分達がここにいることを示すためだ。オンラインで好きなアニメについて語ったり、情報を交換するだけではいけない。ファンがひとつの場所に集まり、そこで存在感と、市場の可能性を示すことで、日本の企業や、ヨルダン社会に、自分達の存在をアピールする。そうして、日本からの物流を呼び込み、社会に受け入れられることを目指しているんだ

熱の籠った口調で語るModarさん。
私達が普段何気なく愛するアニメというものを、ここまでの決意でもって愛する人達がいることに、私はひどく心を打たれた。

「Yukaさんにも、是非来て欲しい」

一週間後の8月25日に開催されるConventionのゲストチケットを、Modarさんに渡されて、私は一瞬なんと言おうか迷ってしまった。
実は今回私が中東を訪れることにした理由は、なんと同じ8月25日に、隣国イスラエルで開かれるアニメイベントで講演会をするためだった(イスラエルサイドでの経験については、また後程ポストする)。

しかしヨルダンは、パレスチナからの避難民の方々が多く暮らす国で、他のアラブ圏同様反イスラエル感情が強い。
そこで、「イスラエルのアニメイベントに行くから、こちらのイベントには参加出来ない」などと言うことが躊躇われたのだ。しかもヨルダンのアニメイベントと同じ日に。かといって、日本に帰るから、などという嘘もつきたくなかった。
結局私は正直なことを告げた。
「この後、イスラエルのアニメイベントに行かないといけないの」
こういうことを言うのが、この国の人達にどう思われるのか、分からないのだけど、と私は続けた。
「もしも気分を害してしまったらごめんなさい」

Modarさんはフロントガラスの向こうを見たままだった。丁度アンマンの街の向こうに沈む夕陽が見えていた。空は赤く、新市街に続く道路は美しかった。

「自分の母親もパレスチナ出身だ」
そう言うModarさんの声は、しかし落ち着いていた。私のために、つとめて明るく言ってくれたのかもしれなかった。
「確かに、両国の関係はあまり好ましいものではない、自分も、あまり隣国を好きにはなれない。それは仕方の無いことだ」

車は緩やかに右にカーブしたハイウェイを登ってゆく。右手に見えるホテルを指して、あれが今度のコンベンションの会場だ、立派なホテルだろう?と言って、Modarさんはハンドルを握り直した。

「分かっている。悪いのは個々のイスラエルの人々ではない。イスラエルの政府だ。それを言うなら、僕はヨルダンの政府も、パレスチナ自治政府も、Politicsのあり方は全部嫌いだ」

分離壁

パレスチナにて撮影した、分離壁

イスラエルのアニメイベントには、何人が参加するんだい?と聞かれて、私は、3000人から4000人、と、友人から得ていた情報を告げた。
Modarさんは、それは凄い、と私の目をちらりと見て、言った。
「一般的に言ってイスラエルのことは好きになれない。でも、そのアニメイベントに来る人達のことは、好きになれる気がする」

……。

アンマン旧市街から車で30分ほど。
同国唯一の漫画書店「WIDE:SCREEN」は、JICAのオフィスの真下に位置し、JICAの活動で日本語を教わる現地のアニメファン達が多く来店する。

jordan manga store

WIDE:SCREEN外観

本棚には実にバラエティ豊かな漫画の英語版が並んでいた。
jordan manga jordan manga やはりBL書籍は見当たらなかったが、唯一、「昨日何食べた?」が置いてあったのでパシャリ。
kinou nani tabeta jordan
どのようなタイトルを輸入しているかについては、試行錯誤の連続らしい。
輸入経路としては、イギリスやアメリカ経由で現地のライセンシーから輸入しているが、コピーライトの問題で、一回の輸入数に制限がかかっているらしく、
「ONE PUNCH MANなんかは、一回に3冊しか輸入出来ないので、入荷後すぐに売り切れてしまう」とオーナーの方は話していた。

ヨルダンで人気の漫画を聞いてみたところ、やはり王道の「ONE PIECE、NARUTO、そしてDEATH NOTE」との答え。
この書店では、Marvelなどのアメコミも販売しているのだが、やはり客層で言うと、日本の漫画の購入者はティーンエイジャーが多く、ゆえに、「一冊当たりの単価は、ほぼ仕入原価に等しく、マージンはあまり取っていない。学生達が、一冊だけでなく、継続的に購入出来るようにしたいと思っているからだ」とオーナーは話す。
(参考までに、普通の漫画の単行本一冊の値段が9JD~11JDだったので、日本円換算で大体1500円である。)

漫画書店から旧市街へ帰る途中、Modarさんが私を伝統的なアラブ料理レストランへつれて行ってくれた。
レンズ豆のスープ
つぼ焼き
つぼ焼き
名前を忘れてしまった飲み物
jordan18
アラブ風サラダや、レンズ豆のスープ、壷でトマトと煮込んだ羊肉を壷を叩き割ってそのまま皿に盛る豪快な料理、チーズのフライ、ラバンという塩っぽい飲むヨーグルト。どれもおいしい。(アラブ料理の特徴として、全体的にちょっぴし塩っぽかったけど。)

さらに旧市街にある有名な昔ながらのスイーツ屋さんで、ヨルダンスイーツもいただいてしまった。

カナフェ

からりと揚げたチーズにピスタチオと甘い蜜をかけたデザート・カナフェ。

ボトルの水まで買ってくれたModarさんに、ホテルまで送ってもらってしまい、恐縮するばかりの私に、彼は言った。
「アラブには客人をもてなす伝統がある。訪れた客人は、40日の間もてなし、彼を襲う全ての害悪から守り抜く義務がある。そして40日の後には、客人は家族となり、相互に守り合う関係になるんだ」
たった一日の会談。私は一方的にModarさんにもてなされてしまったわけだが、近い未来、私自身もまた、家族の一員として、ヨルダンのアニメファンの人達を守り、支えるような役割を果たせたらと、この時思った。
(また別のポストでの話になるが、実は、この後イスラエルを訪れた際にずっと私を泊めてもてなしてくれた現地のアニメファンの友人達にも、似たことを言われた。客人をもてなすのが、ユダヤの伝統なのだと。)

アンマン城

丘の上のアンマン城

私は今、世界中のアニメイベントが加盟する国際団体の手伝いをしている。
今年四月、ドバイのアニメイベントに参加した際、200名を超える参加者へのインタビュー調査を行った。彼等がどこの国出身なのかを聞くと、アフリカやアジア、中東。様々な国籍の人々が、アニメを軸に、一同に会していた。(リンク→http://otakucrossing.com/mefcc-dubai-comicon-2/

どんな人種・宗教の人も、同じアニメを愛する限り、自由に集まれるイベントが、いつか中東で開かれればいいと思う。
ヨルダン・イスラエル・パレスチナ合同でのアニメイベントの開催が、いつの日か、実現して欲しいと思う。
アニメで、政治的に引き起こされる戦争を止めることは出来ない。
けれど、人々の憎しみから生まれる争いを、アニメはなくしてゆくことができるんじゃないかって、結構本気で私は信じてるんだ。

次回、ヨルダン国内縦断編と、イスラエルアニメイベント編へ続く。

★追記:
①ALJのアニメイベントの開催結果について
2016年8月25日、今年で9回目を迎えるヨルダンのアニメイベント「ALJ Anime Con」は、ついに参加者1000人を突破した。これは昨年の記録、400人を大幅に上回るものである。
同国初のコスプレ大会や、アニメグッズの販売も行われた。
私が訪れた漫画書店、WIDE:SCREENも漫画の特別販売を行ったようである。
また、ここで売られるポスターなどは、輸入出来る環境に無いため、全て自分達で印刷しているという。
poster_jordan
参加者の一人が作ったイベントの模様のスライドショー→
https://www.youtube.com/watch?v=x9zu6d2VJqI

運営予算は一人当たり参加費5JD×400(人)=2000JD=約300,000円。
グループを運営するModarさんとMahaさん二人の私費によってまかなわれ、非営利のため、チケット代金は、昨年度と同数の参加者400人があってようやく元がとれるギリギリのラインへ落としてあったが、黒字に終わることが出来たようである。来年度の更なる拡大開催が期待される。

イベントHP→
https://www.facebook.com/events/1146912091995959/

②ヨルダンのアニメクラブについて
ヨルダンにはアニメクラブを持つ大学は元々なかった。
ただ、このオンライングループ「Anime Lovers in Jordan(ALJ)」が、メンバーに向けて、大学生か社会人か、どこの学校に所属しているか、などのグループ内アンケートを行ったところ、断トツでJordan University of Science and Technology (通称JUST)の学生が多かったことから、ALJから派生する形で、Japan and Anime Club JUSTが同大学に出来、多くのメンバーが在籍している。
どこの国でも、理工学系の大学にアニメオタクが多い傾向にあるのは面白い。
これを受けて、現在Jordan Universityでも、アニメクラブ設立の動きがあるらしい。

JUSTアニメクラブグループページ→
https://www.facebook.com/JAC.JUST/?fref=ts

③店舗情報
ヨルダン唯一の漫画書店「WIDE SCREEN」
Amman, Sweifieh, Al Yanbouh Center, next to Bank Audi & iSystem
Amman 11953

Facebook Page→
https://www.facebook.com/sixteen2nine/

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