アニメスタジオ国外認知・好意度調査 ―「過去作評価するけど今は」辛口海外オタクの声

皆さんがはじめてアニメスタジオの名前を意識したのはいつ頃でしょうか。
私がアニメを作る人達の存在に注意を向けるようになったのは、小学校高学年、鋼の錬金術師の初代アニメにどっぷりはまりこんだことがきっかけでした。
OPやED映像、それから当時お小遣いを握りしめ自転車で一時間半かけて通っていたアニメイトの鋼錬グッズにいつも「©ボンズ」の表記があることがなんとなく頭の片隅に残っていて、やがて購読するようになったアニメ雑誌のインタビュー記事で、私はようやく、ボンズ=アニメスタジオなのだと認識しました。
当時最終話放送後に、「鋼錬キャラクター達が居酒屋凡豆(ボンズ)で打ち上げ飲み会をする」という内容のOVAが発売されたのですが、それを見たことも、アニメ製造マシーンとしてではなく、作り手一人一人が働く(そして時にユーモアをまじえる)現場としてのアニメスタジオを私に意識させてくれたように思います。

打ち上げショートアニメ「宴会篇」が収録されているハガレンのOVA。

それから時を経て大学生になりアメリカに留学した時、私は現地で出会ったアニメファン達が、好みのスタジオの素晴らしさを熱心に語り、各スタジオの良し悪しを議論するのを耳にして驚きました。
アニメイベント会場でも、スタジオの紹介パネルや、制作者のトークショーに多くのファンが押し掛け、日本国内よりも、アニメスタジオがれっきとしたブランドとして確立しているような印象さえ受けました。一部のスタジオは、国内よりずっと高く評価されているようにも感じました。

アニメが1クールあたり数十本も放送されるアニメバブル状態の昨今、どこのアニメスタジオが制作に携わっているかは、ファンが「そもそも今季どのアニメを見るか」を決める重要な指標のひとつになっているように思います。
そんな中で今回は、海外のアニメファン約150人に対して、アニメ制作・製作会社の認知度調査を行ってみました。

調査方法

調査方法
各国のアニメ・ゲーム愛好グループに所属する人々に、Google Formを用いFB経由で行いました。
期間は2018年6/6-6/20の二週間、回答者数は156名。
なお、諸事情により、今回調査対象の制作会社や製作関連会社の数はかなり絞っています 。個人的には好きだけれど入れていないスタジオさんもあります。ご了承ください。
(回答者である海外ファンからも、「なぜ俺の好きな○○がないんだ!?」とのコメント多数いただいてしまいました。選択肢にないけれど好きなスタジオを自由記述で回答してもらったので、最後にそれも紹介します)

回答者には、各制作・製作会社について、
知らない → 0
知っている場合 → 10をMAXとした1-10の10段階
で制作力・企画力を評価してもらいました。

言わずもがなかもしれませんが、
制作会社 → いわゆるアニメスタジオです。映像としてのアニメそのものを作る会社です。
製作会社 → アニメに出資し、商品展開に関わったり、ビジネスとしてアニメを企画・活用する会社です。製作委員会に名前を連ねているテレビ局や広告代理店、パッケージメーカーなどはこちらです。

以下では、
1、回答者の属性
2、認知・好意度ランキング
3、各社評価詳細
の順番で結果をお伝えします。

回答者の属性

① 年齢

age
年齢は20代から30代が一番多いです。
協力者の多くが私の留学時代の知り合いでもあるため、大学生〜社会人数年目に偏りが出てしまったようです。海外イベント参加者などから窺い知る実際のアニメ愛好者人口比率はもう少し10代寄りかと思います。

② 性別

gender
性別は男女約半々に分かれました。
設問で「あなたのジェンダーは?」という聞き方をしていたため、その他(Others)を選択してくださった方も5%ほどいます。

③ 地域

region地域に関しては欧州、北米、アジアが大体3:2:2くらいで全体の九割を占めました。
ここにもOthersが含まれてしまっているのですが、これはごめんなさい、アンケート開始当初選択項目にMiddle Eastが含まれていなかったためであり、実際は中東からの回答者かと思われます。

アニメ制作スタジオ認知・好意度調査結果

以下、まずはアニメ制作会社の評価平均点のランキングを見てみます。
青ハイライトは男性評価平均が女性評価平均より0.9以上高いスタジオ、赤ハイライトは逆に女性評価平均が男性評価平均より0.9以上高い、女性に人気のあるスタジオです。0.9という数字は女性平均ー男性平均がもっとも大きかったMAPPAを基準にしています。

anime studio rankingマッドハウスと京アニが頭一つ飛び抜けています。
マッドハウス制作作品としては、特に欧米圏でノーゲーム・ノーライフやワンパンマンの人気が高く、また他にもBlack Lagoonやデスノート、さらに今敏監督の映画作品などあげてゆけばキリがないほど多数世界的に知られた良作を手掛けてきたことが評価されているようです。
Wikipediaでもマッドハウスのページはマレー語やウクライナ語なども含む29ヶ国語展開とアニメスタジオの中では言語の多様性トップレベル。
あとこれは私見なのですが、認知という点で言うと、MAD HOUSEという英語名、そしてスタジオのロゴ、 非常にインパクトがあり記憶に残りやすいものであるのもブランド構築に役立っている気がします。

涼宮ハルヒの憂鬱やFree!!を手がけた京アニも「Kyoani finds a way」というMeme(ネタ画像)が英語圏で広く知られるほどの人気を誇っています。
これは、「京都アニメーションはあらゆる方面の萌えを発明して提供してくれる(思ってもみなかったところにも萌えの道があると示してくれる)」という意味だそうで、「マジで、そんなことまで奴らは萌えにしちまうのか……」みたいな呆れと驚きの意味でも用いられているそうですが。

ランキング3位、バンダイナムコピクチャーズの知名度の高さはバンダイブランドが背後にあることはもちろん、銀魂人気にも後押しされているように思います。
世界中どこにいっても銀魂は大人気。特に実写映画公開後は、コンパクトに分かりやすく銀魂の魅力がまとめられていた同作が海外ファンにとって銀魂への窓口として機能したのか、銀魂大好き!の声を国外で多く聞くようになりました。
東欧(クロアチアやボスニアヘルツェゴヴィナ)で出会ったアニメファンが口を揃えて銀魂を絶賛していたのもとても印象的でした。
でもみんな映画基本違法アップロードで見てるんだよなぁ……劇場版作品は海外劇場公開が難しければ海外限定で同時ネット配信とか、うまく活用できたらいいですよね。

少し意外だったのはMAPPA、トムス・エンタテインメント、ポリゴンピクチュアズが平均を下回っただったこと。
(注※もちろん今回調査対象のスタジオは数多ある元請けスタジオの中の選り抜きなので、ここでの平均は業界全体から見るとかなり上の水準になっている可能性が高いです)
MAPPAは2016年の「ユーリ!!! on ICE」が爆発的ヒットとなり、映画「この世界の片隅に」も手がけるなど、アニメファンならその名を知らないはずはないのですが、「坂道のアポロン」や「残響のテロル」など、どちらかと言えば女性に人気の深夜アニメがメインなのが、全体での知名度としては他より少し低めという結果になってしまったのかもしれません。

トムス・エンタテインメントの作品としてはコナンが全世界的に、それもライトなアニメ層にまで人気ですが、逆に制作スタジオまで気にするようなコア層に響く作品の数が少なめであることが今回の評価の裏にあるのかもしれません。トムスは制作を手がける同社の別名スタジオがクレジットで併記されることも多いため、ブランドがそこまで周知されていないのかも。
(ただ、弱虫ペダルやD-Graymanなどコアファンの多い作品ももちろんありますし、2018年春深夜アニメのメガロボクス(私のイチオシでもあります)は米国でも高評価だったようです。)

ポリゴンピクチュアズも、「シドニアの騎士」や「BLAME!」など知名度の高い作品を残していることと、斬新かつ独特なCG技術で他スタジオと差別化されているため一部のファンには高く評価されてはいるのですが……大衆に広くというよりは、一部に深く突き刺さる技術集団的位置づけのようです。

それでは以下、各スタジオごとの評価の詳細をグラフで見てみましょう。

<ノ型>

認知度も高く多くの人が高評価を選んだ、王道人気スタジオです。
madhousekyoani

bonesボンズはヒロアカやハガレンなど、特定層でなく幅広いファンに愛される作品を、圧倒的なアクションシーンやぶれることのない画力で描ききっていることが高く評価されているようです。


TRIGGERは日本以上に海外人気の高いスタジオの一つです(もちろん日本でも人気ですが!)
キルラキルやKickstarterのリトルウィッチアカデミアクラウドファンディングで有名になり、先日にはPatreonという英語圏の月額クラウドファンディングサイトでも継続的な支援募集を開始したことが話題になりました。

そしてFateシリーズ、活劇刀剣乱舞が有名なufotable。
ufotable

<山型>

知名度もあり高評価ではあるのですが、満点ではなく、7、8点を選ぶ人が多かったスタジオです。最高10点とは言わないファンの辛辣な評価。好きだけどタイトルや話数によっては……とブレに不満を感じていることの表れでしょうか。制作能力としては文句なしの10点だけど、自分のタイプの作品をあまり持っていないという理由で8評価に流れたファンもいる気がします。

まずはソードアートオンラインや僕だけがいない街を制作したA-1 Pictures。
A1 pictures続いてガンダムやコードギアス、銀魂のサンライズ。
sunrise回答者の一人が、「昔はコードギアスのような重厚な作品が多くて好きだったけれど最近はラブライブのようなアイドルものが目立って…ガンダムまで萌え狙いのアイドル化してるように思える」とこぼしていました。が、私は彼に機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズは見ましたかと尋ねてみたい。あのストーリー性、作画もMAハシュマル戦や最終話戦闘シーンの獣じみたバルバトスの動き、目が離せない息もつけない……はぁ……泣く……。観てください。

お次は攻殻機動隊や黒子のバスケのプロダクションI.G。
IGIGもブランドが確立されているように思っていたのですが、満点評価をするファンよりは7, 8の「惜しい」評価をするファンが多かったのが意外でした。

ワンピースやドラゴンボールの東映アニメーション。

toei銀魂.やアイカツ!のバンダイナムコピクチャーズ。

bnp物語シリーズやまどマギのシャフト。
シャフトもどちらかといえば男性人気の高いアニメが多いので、安易な予想をするならば、男性と女性でもしかしたら票が割れたのかも?
shaft

<直線型>

お次は評価が分散傾向にあるスタジオです。
まずはNARUTOやBLEACH、おそ松さんが人気のぴえろ。
pierrot薄桜鬼、ひぐらしのなく頃になどのスタジオディーン。
studio deen食戟のソーマ、クジラの子らは砂上に歌う、などのJ.C.STAFF。
jc staff巌窟王やLAST EXILEのGONZO。gonzoGONZOは複雑ですね…こちらも知名度は7割と非常に高いのですが、評価が下方向に割れています。
昔の作品はよかったけれど…というファンの声の表れか。
ロシアからの回答者の一人からは、「ロシアでは昔GONZO作品がテレビ放映されており人気だったけれど…」と昔を懐かしむ意見が聞かれました。

続いてユーリ!!! on ICEやこの世界の片隅で、のMAPPA。
mappaコナン、弱ペダなどのトムス。
tmsマクロスのサテライト。

satelightシドニアの騎士、BLAME!のポリゴン・ピクチュアズ。

pp君の名は、など新海誠作品のCoMix Wave Films。

cwf蒼き鋼のアルペジオ、ブブキ・ブランキのサンジゲン。sanjigenドラえもんのシンエイ動画。shinei遊戯王のぎゃろっぷ。gallopポケモンのOLM。olmサザエさんのエイケン。eiken

また、今回自由記述で「選択肢以外の好きなスタジオ」も挙げてもらったのですが(カッコ内の数字は回答者数)、圧倒的な「スタジオジブリ」と「ガイナックス」の評価。未だにエヴァ=ガイナックス、のイメージのファンが多いようです。
WITは進撃や甲鉄城のカバネリを制作したスタジオ、頷けます。
そしてDavid Productionを推す海外アニメファンの多さ!
昨年までに手がけた元請け作品はそこまで多くはありませんが、ジョジョの奇妙な冒険などの良作が印象に残ってか、複数の回答者が好きなスタジオとしてあげてくれました。
P.A.Worksも自由回答であげてくれるファンが多かったです。「P.A.Worksが選択肢になくて悲しい」と熱い想いを綴って下さった方も。

Gainax(ガイナックス) (11) Tatsunoko(タツノコプロダクション) HAL Film Maker
Studio Ghibli (スタジオジブリ)(9) Xebec(ジーベック) BeeTrain
WIT(6) khara (カラー) Yaoyorozu(ヤオヨロズ)
David Production(5) diomedia(ディオメディア) Production IMS
PA Works (4) Nippon Animation (日本アニメーション) 3Hz
Chizu(スタジオ地図)(3) Seven Arcs Pictures geno studio(ジェノスタジオ)
Lerche(ラルケ)(3) Kinema Citrus(キネマシトラス) orange
Studio 4°C(2) Roosterteeth productions Studio LAN
AIC(2) Ponnoc(スタジオポノック) Feel
White fox (2) SILVER LINK
Brains Base(2) GoHands

 

ハリウッドのアニメ・映画業界と比べたときに、日本のアニメ産業はスタジオ数が非常に多いのが特徴だと言われています。むしろ多すぎる、アニメが作られ過ぎている、との声もよく聞きます。
原作を早期に刈り取ってしまうことなく、自転車操業に陥ることもなく、本数は少なくてもアニメスタジオが一作一作をじっくり作り上げることができる環境を整えることは、日本スタイルのアニメが近い未来、日本だけでない世界各地で今以上に作られるようになった時、国内のアニメ関連会社がブランドとして生き残るために必要なことではないかと思います。
そのために何が求められているのか、制作費を融資してくれる金融機関の条件緩和か、政府の支援か、巨大企業のグループ会社化や多角化による資金確保か、制作会社自身の積極的な情報発信なのか、色々考えていかなくちゃいけないけれど、
「このスタジオが作るものなら」という信頼感はやはり大切だし、もっと海外のファンにスタジオの名前を認知してもらえるようにしてゆきたいと思いました。

本当は製作会社についてもこの記事でと思っていたのですが、長くなってしまったので、それはまた別の機会に!

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