【中東縦断記】イスラエル編①〜エルサレム前編〜

前回のヨルダン編に引き続き、イスラエル縦断の記録です。長くなってしまったので、エルサレム(前編)、死海、パレスチナ、エルサレム(後編)の四回に分けてお届けします。
Here is my travel report from Israel. Since it gets too long, I divided it into 4 parts. First part is about Jerusalem.

※前回書き忘れてしまったのですが、イスラエル入国を考えている旅人さんのおそらく一番の気がかりごと、「入国スタンプ」
イスラエルの入国スランプがパスポートにあると、他のアラブ圏への入国を断られてしまうため、中東を旅する旅行者はイスラエル入国時に別紙にスタンプを押してもらうよう頼む必要があると言われています。
私もうっかり押されてしまわないよう注意していたのですが、私の時は自己申告する前に係員の方がバーコードの印刷されたカードのようなものをパスポートに挟んでくれて、それで終わりでした。スタンプ無し。あっさり。ただ、このカードを無くしてしまうと出国の時大変らしいので、お気をつけ下さい!

jerusalem

地面に刻まれた、ユダヤの象徴六芒星

さてそもそも、どうしてイスラエルに行く事になったのか。

元々は、私の大学で学ぶイスラエルからの留学生が大のアニメ好きで、意気投合したことに端を発します。
彼女から現地のアニメファン達の様子を聞くうちにイスラエルという国に興味を持ち、イスラエルのアニメイベントに行ってみようかと思うと話すと、なんと元々そのイベントの初回から運営に関わってきたという彼女から、現地で講演をしてみないかとのオファーを受けました。
是非と答えた私のために、パネルプレゼンの登録から現地で私を泊めてくれる心優しい友人達への声かけまで行ってくれたLiron、
今回の旅は、何よりも彼女のおかげです。この場を借りて御礼を言わせてください、תודה、ありがとう。

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今回の私の旅程は、8/21~25@エルサレム(うち一日はアニメイベント)、8/26@テルアビブで、そこから日本に戻るスケジュール。
9/1よりフランスで留学する(今まさにしている)ため、元々はイスラエルから直接フランスに飛ぶ予定だったところ、奨学金団体に駄目出しを食らってしまった(留学と無関係な都市に途中寄るならお金あげないよ、と言われた……)ので、イスラエルから一度日本に戻り、その四日後に再びフランスへ飛ぶ日取りとなっていた。

エルサレムで私を泊めてくれるのは、私をイスラエルへinviteしてくれたLironの友達二人、夏目友人帳好きのSemとヒロアカ好きのMaayan。二人のアパートは、バスターミナルからはバスで一本、エルサレム旧市街からトラムで四駅程北上した坂の上にある。
坂を下った近くにはアラブ人居住区があるらしく、「私達は行けないけれど、もし興味があるのなら、Yukaだったら大丈夫だと思うから行ってみたら」と二人は言った。二人は行けないの?と聞くと、そう、私達にとっては危ないの、と、どこか苦々しい諦めの滲んだ顔を見せた。
「私達は、ユダヤ人だから」

イスラエルに来る前、私にはひとつ気がかりなことがあった。

それは、一般のユダヤの方々とアラブの方々の対立が、どの程度深刻なのかということ。
勿論人によりけりではあるのだけれど、それぞれに対して個人レベルでどうした感情を抱いているのか、そしてまた私が無邪気にそういった話題を口にしていいのかということ。
しかし初日、家に着いた後、リビングのソファに腰を下ろしたSemとMaayanの二人は、恐る恐る私が口にした疑問にも嫌な顔をすることなく答えてくれた。

二人はまず私に、自分達はreligiousではない、と話した。
ユダヤ人ではあるが、ユダヤ教の信者ではない。
けれど家族が熱心なユダヤ教徒で、そこで育った影響から、今もユダヤで禁止されている食べ物を食べたいとは思えない、習慣としてそうした宗教的な生き方が身に付いている部分はある。
ユダヤとアラブは、憎しみ云々以前に、関わりあうこと自体が危なくて、接点をなかなか持てない。
(でも誰がユダヤ人か、見分けはつくものなの?たとえば、西欧諸国からの観光客と外見から相手が何人か断定出来るの?という私の問いに対し)外国人からは見分けがつかなくても、イスラエルに暮らす住民からすれば、誰がユダヤ人でアラブ人かが分かる。
イスラエル国内であっても、アラブ人居住区には自分達は立ち入れない。ここに住む我々より、旅行者(筆者)の方が、自由に国内を見て回れる。
などなど。

私が、エルサレム滞在中の一日、パレスチナに行こうと思っているという話をしても、二人は、危ないよ、とは言ったものの、嫌な顔を表に出したりはしなかった。ただ、その顔にはやはり遠い昔に錆び付いてしまったような苦みが浮かんでいた。

①エルサレム新市街

序章:バスターミナルの詐欺師。教訓。握手がふわふわなおっさんには気をつけろ!

エルサレムでの一日目、私は旧市街観光の前に死海に行こうと思っていた。
一日目に遠出してしまえば、二日目から落ち着いてエルサレムを見て回れると思ったからだ。
死海には、北のエンゲディと南のエンボゲックという二つのビーチがあり、エルサレムからの距離が近いことと、より庶民的であるということから、私は元々エンゲディに行くつもりでいた。

昨日と同じバスターミナルに行き、エンゲディ行きのチケットを買おうとすると、しかしカウンターの係員のお兄さんに、そのバスは走っていない、と言われてしまった。
え!?走ってないってどういうこと!?と聞こうとしたのだけれど、イスラエルの人はヘブライ語が話せない人間には冷たいところがあって、お兄さん、私を無視してカウンターを閉め、どこかへ行ってしまう。そんなぁ。
仕方なく隣のインフォデスクで確認しようとした私だったが、ここで!

おっさんが声をかけてきた!

おっさん「バスは走ってないんだよ。でもシャトルならある」
私「シャトルってシャトルバスのこと?」
おっさん「案内してあげるからこっちへおいで」
話をしながらバスターミナルを兼ねたショッピングセンターをどんどん下へ降りて行くおっさん。そうだ自己紹介を忘れてた、などと言って手を差し出してくる。元々怪しすぎるとは思っていて、バスがどうして走っていないのかを聞くためについてきたようなものだけれど、握手をした瞬間、私の頭の中で、こいつはあかん奴だ、という直感が確信に変わった。

これは私の経験論だけれど、はじめの握手での手の握りが甘い人間、それは力云々の問題ではなくて、どこかふわっとしている人間は、大抵裏で怪しいことを考えているか、こちらと真に分かり合おうという気の無い、つまりはあかん奴である。
初対面での握手に心がこもっている人とは、その後も長続きするし、そうでない人とは一回限りか、最悪相手がこちらを騙そうとしてきていることが多い。
このおっさんの握手もふわっとしていた。
おっさんは早足で歩き、私をバスターミナルから遠ざけようとしている。話をよくよく聞いてみると、どうやらタクシー運転手らしく、シャトルという名目で私をタクシーに乗せようとしているらしい。
バスと同じ値段でいいよ、とか言ってきたけど、いやいやいやいや嘘でしょ。ここから二時間近くかかる場所に、1000円ちょっとでタクシーで連れてってくれるわけないでしょ。どんだけ善人だよ。
私が、「本当にバスと同じ値段なの?」と試しに紙に値段を書いて確認すると、おっさん、「バスと同じ値段で行けるわけがないだろ、なめとんのか」とさっきと真反対のことを言って逆ギレして来る。とんでもなく怪しい。しかしあるはずのバスが無いことといい、何が何やら分からなすぎる。正確な情報が必要である。
イスラエルの友人に電話で確認するから、と、取り敢えずSemの携帯に電話する。
通じるか不安だったけれど、Semはすぐに電話をとってくれた。
「Yuka、どうしたの?」
「早々に迷惑かけてごめん。でもどうやら死海へ行くバスが走ってないみたいなの」
するとSemは電話の向こうでパソコンで調べてくれて、確かにエンゲディ行きのバスはあると教えてくれた。
「とにかく、バスがストップしている、みたいな運行情報はどこにも出ていないよ」
しきりに「相手にかわれ。俺が事情を説明してやる」と言って来る運転手をスルーして、私はSemに御礼を言ってから電話を切る。
よく分からないけれど、取り敢えずバスはあるらしい。ならば一刻も早くこの運転手から離れるべきだ。
「やっぱりいい、あなたのオファーは受けない」
「じゃあどうするってんだ?バスは無いんだぞ!」
「私の友人はバスがあるって言ってる。私は彼女を信じる。万が一バスが無いんだったらエルサレム観光するから平気。I don’t need any help from you.」
眉を吊り上げているおっさんを置いて去る私。

再びバスターミナルのカウンターへ行くと、今度のインフォデスクのおじさんは優しい人で、笑顔で時刻表を渡してくれた。
それは確かにエンゲディ行きのバスのものだった。一時間〜二時間に一本のペースで出ている。
イスラエルのバスの時刻表は一週間分の時刻が印刷された紙が毎週発行され(頻繁に改訂されるからだろうか)、バスターミナルでもらうことができる。
それによると、今日はあと30分でエンゲディ行きのバス、486が出ることになっていた。
チケットはバスの中でも買えるらしい。
乗り場に行ってみると長い列。日曜日だから死海に行く人も多いようだ。
そこに並んで待っていると、さっきのおっさんがやってきた。
「You said you would not go to the Dead Sea today(今日は死海行かないっていったじゃねえか)」
完全逆切れモードで詰め寄ってくるおっさんを、私は思わず睨んでしまった。
「You said there was no bus, but there IS a bus. You are such a liar. (バス無いって言ってたけどあるじゃない、この嘘つき)」
おっさんは忌々しげに顔をしかめると、他のカモを探しにか、再びカウンターの方へ去って行った。
思わず私も強い口調で言ってしまったけれど、変に相手怒らせていちゃもんつけられて警察沙汰にしたりされなくてよかった。すぐカッとならないようにしなきゃ。
ところで元々のチケット売り場の係員のお兄さんは、どうしてバスは無いなんて嘘をついたのだろう。おっさんとグルだったのか、単に面倒くさかったのか、分からない。

そうしてバスを待っていたのはいいのだけれど、やっと来たバス、人が殺到してぎゅうぎゅう詰めで、乗客を押し込むのに30分くらいかかってそれでもなお私は入りきれなくて、次のバスはまた一時間後だというし、結局もうこれは行かない方がいいということだろうと割り切って、この日は死海を断念した。死海用の着替えとかが重いのは難点だけれど、諦めてエルサレム市内観光に半日をあてることにする。
この時点で時刻は既にお昼を回っていた。

一章:エルサレム博物館で死海文書に萌えるエヴァヲタであった

どうせなら、バスターミナルから旧市街へ戻るよりも、近くの新市街で見所はないだろうかと考えて、エルサレム博物館に行く事に。
その目的は、そう、死海文書。
大のエヴァンゲリオンファンである私は、死海文書を見ずには帰れない!

★死海文書とは>1947年以降、死海の北西(ヨルダン川西岸地区)にある遺跡クムラン周辺で発見された972の写本群の総称。ヘブライ語(旧約)聖書の最古の写本を含む。アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」には、死海文書(ないし、劇場版/新劇場版では裏死海文書/裏死海文書外典)に書かれたシナリオに沿って、黒幕的存在であるゼーレが世界を裏で動かしている、という設定がある。

あ〜心にさっそく桜流しがリピート再生され始めて泣いてしまいそうだよ、カヲルくん……。
Everybody~finds love~ in the end~♪
(ちなみにその日の夜、家に泊めてくれているSemに「今日イスラエル博物館行って来たよ!」と報告したら、「エヴァの死海文書があるからでしょ」って一発で見抜かれました。さすがオタク同士、分かってるじゃねえか……!)

このエルサレム博物館、これまで行った博物館の中では格段に面白かった。トーラと言われるユダヤ教の経典や、美しいヘブライ語で書かれた本、世界各地のシナゴーグの展示や、同じく各国各地域によって異なるユダヤ人女性の風俗衣装。
ユダヤの地でしか見れないような、独特で多様な展示が非常に興味深い。

ヘブライ語文書
単一の宗教に基づいた、しかし地域によって非常に多様な色あいを持つ文化。
勿論死海文書にも感動した。

死海文書

はぁあああああああ死海文書〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!

この博物館には、イスラエルの兵役に服している青年達も訪れていた。課外研修の一環としてだろうか。博物館内を軍服の青年達が大挙して歩く異様な光景。でもミリタリー好きとしては不謹慎ながらも萌えてしまう。

army_israel
イスラエルは国民皆兵国家であり、満18歳の男性に三年、女性に二年の軍役が義務づけられている。
しかし、面白いことに、超正統派ユダヤ教徒と認められた人には、2016年現在、軍役は課されていない。ユダヤのための国は、ユダヤ教の象徴であるとも言える超正統派以外の人々によって支えられてきたのだ。
(※兵役免除されてきたのはあくまで「超」正統派のユダヤ教徒である。実際、軍役に服している青年達の多くは頭にユダヤ教徒の証であるキッパを被っているユダヤ教徒だ。しかしこの「超正当派」の特権への批判が高まり、2017年より、超正当派の男性にも兵役が課されることになっている。)

★正統派ユダヤ教徒とは

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エルサレムの街中で見つけたTシャツ。Jew=ユダヤ。ユダヤ風ピカチュウである。

ユダヤ教の宗派の一部。ユダヤ教正統派の中でも、特に東部ヨーロッパに由来する伝統的な形態とその人々に対する通俗的な呼称。
真っ黒なスーツに山高帽を被り、カールした髭を蓄えもみあげを伸ばしているのが特徴。ユダヤ教の最右派でイスラエル人口の10%近くが信仰しているとみられている。

超正当派

from Wikipedia

初めてエルサレムに足を踏み入れた時、私はこれがかなりカルチャーショックだった。イスラム圏にはよく行くので、ヒジャブで全身を覆った女性達には慣れていたのだけれど、ユダヤの超正当派の人達の、真夏でも一様にきっちりと黒服を着込んだ姿は、なんだかとても異様に見えた。

その格調高い姿から、私はてっきり彼等は上流社会の人々なのかと思ったのだけれど、それを告げるとSemにとんでもない!と言われてしまった。
「超正統派ユダヤ教徒の多くは丸一日中神に祈りを捧げ、仕事ができないために政府から補助金をもらって狭い家に住み、子供も多く貧しい生活を送っているのよ」
新市街と旧市街の間には、メアシェリームという地区がある。地球の歩き方にも載っている、正統派ユダヤ教徒の集住地区だ。ここも高級住宅地のようなものかと思ったら、貧困街みたいになっているらしい。
どうしてそうした地区が形成されるのかとSemに訊いたところ、ある地区に超正当派の家族が移り住むと、その特異な生活形態から、徐々に周りの住民が離れ代わりに同じ超正統派の家族が引っ越してくるようになり……と集住地が出来るらしい。

Semが言っていた。
「今イスラエル国内で深刻な対立は、ユダヤとアラブだけでなく、アシュケナジム(超正統派を含む東欧系ユダヤ人)と、セファルディム(南欧・中東系ユダヤ人)の対立なの」
自身はアフガニスタンにルーツを持つセファルディムであるSemは、そう話す時にも、どこか苦々しげな表情を浮かべていた。

更に複雑なことに、ユダヤと一括りに言っても、ユダヤ「人」とユダヤ「教」はまた違う。ユダヤ教を信じていないユダヤ人もいるし、ユダヤ人でありながらキリスト教などの他宗教を信奉している人もいる。
イスラエルは、曖昧で不確かな民族とか人種とか宗教といったイデオロギーで、人々が互いに小さなセルに分断されて、互いを侵犯しないように常に警戒しながら生活している国だという印象を受ける。

そんなことを考えつつ博物館の無料wifiを使って旧市街への行き方を調べ、受付の人に聞いたバス乗り場へ。たぶんこれだろう、という勘で乗ったバスは、降りるタイミングが分からないでいるうちになんとバス停を逃してしまい20分近く歩くハメになった。

イスラエルのバスはエゲッドバスと呼ばれ、短距離も長距離も同じ会社が運行している。トラム(LRT)もバスも一回の料金は定額。
「Rav-Kav」と呼ばれるSUICAのようなチャージカードを持っていると便利(発行には5NIS=150円ほどかかる)。私は初日にバスの中で買って使った。チャージはバス停にある自動販売機か運転手さんを通じて、乗車単位や、金額単位で行える。
このカードを使うと、
① 乗車料金20%オフ
② バスやトラムを乗り継ぐ際、初回乗車の一時間以内であれば、二本目以降のバスが無料
などのメリットがある。
(詳細はこの記事→http://tokuhain.arukikata.co.jp/telaviv/2015/05/rav-kav2.html

②エルサレム旧市街

二章:アラブ系キリスト教徒褐色肌筋肉系に萌える刺青ヲタであった

夕方ようやく到着したエルサレム旧市街。

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この街を囲む城壁は、紀元前11世紀ダビデ王の時代より幾度にもわたる破壊と再建を繰り返し、現在は1538年にスレイマン一世により築かれたものが残っている。
岩壁の内部にあるエルサレム旧市街は、東西南北に十字を走らせた形に四つの区画に分かれ、それぞれが、ムスリム地区、キリスト教徒地区、アルメニア人地区、ユダヤ人地区に分かれている。

トラムの駅「Sha’ar Shkhem(Dameskes gate)」にほど近いダマスカス門をくぐると、そこはムスリム地区のアラブ人街だ。

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緩やかな坂道の上に直接野菜や果物の籠が置かれた市場を、ヴェールで頭を覆った女性達が行き交っている。奥へ奥へと歩いてゆくと、土産物屋さんや地元の人向けの売店が連なった通りに出る。

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交差点には銃を持った警官が立って鋭く光る目で辺りを伺っている。

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アラブ〜という感じのお肉屋さん。看板からするとヤギ肉のようです。

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イスラムのスークの定番、ナッツやさん!

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看板にはヘブライ語・アラビア語・英語の三言語で通りの名前が表示されているのだが、ヘブライ語の部分のみが消されていた、ムスリム地区の看板……。

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ムスリム地区の壁面には、沢山のイスラムを匂わせるグラフィティ。

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ムスリム地区の、ライオン門へ通じる通りは、キリスト教の「ヴィア・ドロローサ」、イエスが最期十字架を背負って歩いた道であり、キリスト教関連のお店も軒を連ねていた。一方で、「Visit Palestine」……パレスチナへ、という看板も売られていた。

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あてもなく歩くうちに、一軒の小さな売店の前で男に声をかけられた。
「こんにちは」
日本語。これはよくない兆候。無視して歩く私に、男はついてきて再び言う。
「こんにちは」
何度も無視するのもさすがに忍びなく、こんにちは、と小声で言って通り過ぎようとした私に、男は続ける。
「あい?」
あい?……なんだろう。立ち止まった私に男は言った。「あい……ふくはらあい、I love her.」
どうやら卓球の福原愛さんのファンらしい。I love Japanと続ける男におざなりにThank youと返してそのまま進もうとすると、男は「この売店は俺の友達の店なんだ。よかったら少し話しようぜ、な?」と、その友達らしい隣の男に同意を求めた。私はそちらを見る。
男の友達にしてこの店の主らしい彼は、おそらくは私と同年代の二十代半ばくらいの、筋骨逞しい褐色肌のアラブ系の青年だった。腕には黒々とした刺青を入れている。
……漫画キャラだったらドストライクだった。(褐色肌筋肉系+刺青オタクな私であった。)
そして彼の腕の中には幼い少女がいた。そう、可憐な少女がいた!!!
「My niece, Katrina」姪っ子らしい。女の子を抱き上げてほおずりする褐色肌マッチョwith刺青。ああ……やはりドストライクである。
だからというわけではないのだけれど、正確には、その姪っ子への対応から悪い人ではないな、と判断をして、私は小さなそのお店にお邪魔になることにした。

何の店なのか、机には大きなスクリーンがあり、そこには店の周囲四方を撮影した監視カメラの映像がリアルタイムで映されている。壁の脇には形ばかりに果物と飲み物が売られており、その冷蔵庫からコーラを出すと、褐色肌の男はコップに注いで私に勧めてくれた。
私をはじめに呼び止めた張本人の男はというと、急用が出来たと言って早々にいなくなってしまい、無理矢理呼び込まれた私と、姪っ子と一緒にいたのに無理矢理私を押し付けられた褐色肌の男とが残った。

エルサレムの旧市街に住んでいる人と話す機会なんてそうそうあるもんじゃない、何か話さないと、と思うのだけれど、好奇心からだけで宗教的なこととか人種的なこととか尋ねていいものかと迷っていたら、褐色の彼がウォッカを出してきて、「これはいい酒だ」と勧めてくれた。
「あれ?飲んでいいの?」
てっきりここはムスリム地区だと思っていた私が聴くと、「俺はクリスチャンだからな」と、タンクトップの胸元から十字架のネックレスを出してみせてくれた。
気づかないうちに私はキリスト教徒地区に迷い込んでいたのだ。

エルサレム内のそれぞれの地区には明確な境目は無い。ただ、壁に描かれたものや、行き交う人々の雰囲気で、そこがどの地区に属するのかが分かる。

ありがたくウォッカのショットをいただきながら、言うに事欠いた私は、「I love your tatoo」と、男の刺青を褒めることにした。
すると、背中にも入れてるんだぜ、見る?と、男はおもむろにタンクトップを脱ぎ出す。
あわあわわわあわわいいんですか!?
そしてそこには、私の大好きな漫画Gangsta.に出て来る便利屋の二人の背中に彫られたものにそっくりな刺青が!!!やっぱりドストライクじゃないですか!!!!
写真を撮らせてもらったのだけれど、おそらく私の手が興奮でぶるぶる震えていたためか、到底掲載出来るようなレベルの写真ではなかったので、皆さんの想像にお任せすることにします。

しかしこの日私は、滞在先のSemと一緒に旧市街の近くで晩ご飯を食べる約束をしていた。
時間があれば永遠にわけも無く滞在してしまいそうだったけれど、お邪魔するのはこれまで。
男に別れを告げると、餞別の品だ、と、腕につけていたリストバンドをくれた。―――って、これ、Swedenって書いてあるやん。
そう、男がくれた餞別の品はなぜかスウェーデンのゴム製安物リストバンドだった。
「友人がお土産にくれたんだ」……って、それ私にくれちゃうの?いいの?というかイスラエルに来た旅人にスウェーデンのお土産渡すってどうなの?とつっこみどころは満載だったけれど、そこも含めてチャーミングな青年でした。別にお金も取られなかったし。

ムスリム地域には、モスクのような建物や、イスラムの月がカラースプレーで描かれていたが、キリスト教徒地域では、十字架が描かれていたり、街角にマリア像があったりする。

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うっすらと暗くなり始めた通りを、今度は西のヤッフォ門から出る。

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エルサレム旧市街の中でパブリックwifiが使えるのはおそらく唯一、ヤッフォ門近くのツーリストオフィスのみ。ヤッフォ門を出てヤッフォ通りを真っ直ぐ行くと、Zion Squareという商業地区に出る。

jerusalem ここは飲食店や雑貨店が軒を連ねており、ちょっとした繁華街になっている。
そこでSemと待ち合わせて、彼女のオススメだというFocaccia Barというレストランに入った。
ここのフォッカッチャはとにかく巨大!

jerusalemそしてお肉入りのサラダの美味しいこと!

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イスラエルの料理は、kosherと呼ばれる食物清浄規定に基づいた料理なので(一部そうでないお店もあるが、食べ物の規定についてはイスラム教以上に厳しいと考えていい。私がアメリカの大学に留学していた時は、ユダヤ教徒用の特別な食堂が用意されていたくらい)何でも食べられるアジア人にとっては美味しくない、という噂を聞いていたのだけれどそんなことなく、本当に美味しかった!

ただ、イスラエルの料理はとにかく量が多い!二人でシェアしたフォッカッチャも食べきることが出来ず残念ながら残してしまった……。

この日の夜、アニメイベントに向けて衣装作りに勤しむ二人を傍目に、私は同じくアニメイベントでの自分の発表用の原稿とスライド作り。

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次回、死海編とパレスチナ編を経て、イスラエルアニメイベントについて書きます!
読んで下さり有難うございました!
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