あまりに間が空いてしまったのでもはや記憶試しの様相を呈しているのですが、
今年(2019年)のゴールデンウィーク、4月27日から5月7日にかけて、ネパールを訪れてきました。
この記事では、首都カトマンズ付近で見つけたアニメショップ、そして現地ファンの愛がこもったNARUTOのテーマカフェを、ネパールのアニメ事情を交えつつ紹介します。
近くて遠いネパールへの道
日本の在留外国人の国籍第6位(約9万人)をネパール人が占め、
街のインドカレー屋さんの多くも実はネパール人の経営するものだったりと、
なにかと日本と関係の深い国、ネパール。
しかし他のアジア諸国と比べると地理的にも少し遠く感じられ、
国の位置はと問われたら、とりあえずユーラシア大陸の真ん中あたり指差しとこう、となってしまう方も多いのではないでしょうか。
ネパールは地図で見るとインドの右上、そして中国チベットの左下。
アルプス・ヒマラヤ造山帯の上に位置する山岳国家です。
世界の高い山ランキングを見てみると、トップ10のうちなんと8つもがネパールに位置しています。
ちなみに私も、この旅の最中、アニメショップ巡りのついでに六日間かけてヒマラヤ山脈アンナプルナベースキャンプ(4,130m)まで登ってみました。
ネパールはその立地から推しはることができるようにヒンドゥー教とチベット仏教が複雑に混ざりあった独特の文化を持ち、多民族、そして異なるカーストの人々が暮らしています。
町のあちらこちらに溶け込むようにして寺院が存在し、路地を歩けば市井の人々が花や米を供えたり、祠の周囲を巡りながら祈りの鐘を鳴らしている姿を目にすることができます。
豊かな自然と文化を擁する一方、1人当たり国内総生産は約470ドル、アジア最貧国とも言われる後発開発途上国であり、日本からも青年海外協力隊やJICAをはじめ多くの国際協力団体が現地に赴き活動しています。
そもそも私が今回ネパールに行くと決めたのも、現地の青年海外協力隊の知人、そして各国で子供たち向けのアートフェスを開いている団体の方に、
「ネパールの子供たち相手にアニメ・漫画のワークショップしてみない?」と誘われたことがきっかけでした。
海外支援などと言うのはおこがましいですが、途上国・新興国の子供たちと関わる活動はずっと前からやりたいと思っていたことで、ましてやアニメを通じてそれができるというのは願ってもない話だったのですぐさま飛びつき、フェスの半年以上前には航空券を予約していたのですが。
が!!
まさかこの先に待つトラブルで神経をすり減らすことになろうとは、この時は思いもしなかったのでした……。
インドの航空会社には気をつけろ!!
自分がこのゴールデンウィークのネパール行きの航空券を予約したのが、前年の年の暮れ。
節約トラベラーなので価格最優先で、インドの航空会社Jet Airwaysのニューデリー乗り換えカトマンズ行きの便を予約しました。
しかし年明けからJet Airwaysより離着陸時間の変更通知メールが頻繁に送られてくるように。
しかも変更のたびに乗り継ぎ時間がどんどん長くなり、到着時刻が遅れ、ついには当初予定より一日あまり遅い到着時間になってしまいました。
カスタマーサービスに電話してもキャンセル不可と言われ、挙句乗り継ぎ空港まで変わって、とんでもない大回りルートに……。
極め付けに渡航一週間前、ついに「Jet Airways Flight Cancellation Notification」と題されたメールがメールボックスに。
往復の乗り継ぎ便、インド〜ネパール間が欠航決定との連絡。
ただし日本〜インドの便は残っており返金不可、乗り継ぎ場所のインドから最終目的地のネパールまでは、別の航空券を見つけて自力で行ってね!とのこと。そんな理不尽ってあります!?
でも諦めない、ここまできたら意地でも行ってやる、そう心に決めて欠航した区間をカバーする航空券をなんとか見つけて購入した直後、こんなメールが届きました。
まさかのJet Airways破産、全便欠航。
ニューデリーまで行く便すらなくなってしまいました。
カスタマーサービスにメールするも返信無し、日本での空港カウンターに電話するもこちらではどうしようもない、返金は望めないとの返事。
さすがに渡航自体を諦めそうになったのですが、現地のフェスの主催の方々も一緒に航空券を探してくれて、
連休直前の高値ではあったものの、急遽別の航空券を乗り継いで行くルートを予約し、バンコク経由のLCCでネパールへ向かうことになったのでした。
なお、結局旅から戻って一ヶ月後、Jet Airwaysの航空券代は無事全額返金されました。
ただし、乗り継ぎ区間のみ欠航通知が来た時に慌てて手配してしまった別航空会社のインド〜ネパール間の航空券のキャンセル代は自己負担に。
インド系の航空会社はシェアトップクラスの他社も資金繰り危ういところが多いそうなので、どんなに安くお得でも避けた方がベターとの助言を後になって受けました。
皆さんも安物買いの銭失いとならないよう、どうぞお気をつけください。
World Kids Festival in Nepal – ネパールの子供たちに向けたアニメワークショップ
そんな波乱を乗り越え、ネパール到着翌日に講師として参加した、World Kids Festival。
主催はWorld FestivalとJICA、そして青年海外協力隊の方々。
ネパールの首都カトマンズの周辺の学校に通う子供たちを集めて、音楽やアートなどのワークショップを行うイベントです。
エンタメを通じた自己表現と交流促進を目的としたこのフェスの一環として、自分は現地のアニメイベント主催団体『Otaku Next』の方々と一緒に、アニメと漫画にまつわるワークショップを行いました。
まず驚いたのは参加した子供たちの英語力の高さ!
今回会場とした学校が高レベルの教育で知られる学校だったことも大きいのですが、
そもそもネパールはイギリスとの歴史的な繋がりも深い国、さらに観光業が盛んだったり母語の異なる人々が暮らす他民族国家であることから、英語が話せることが重要視されているとのこと。
ネパール語でなく、英語字幕や吹き替えでアニメを楽しんでいる若者も多いのだそうです。
ワークショップへは、漫画・アニメが元から好きだという子供たちもたくさん集まってくれました。
アニメの歴史だとか、漫画独自の表現技法だとか、ストーリー作りだとか、内容はいろいろ考えていたのですが、
実際にワークショップを開いてみた感想としては、小学校低学年から高校生まで幅広く集まるこの手のイベントでは、やはりただアニメを流して楽しんでもらう上映会がシンプルイズベストのようです。
ぜひ各権利会社さんには、難しいことは承知の上ですが、
小さな市場だからと軽視せず、潜在的なアニメファンを増やす将来への投資として、子供たちにアニメをもっと身近に感じてもらえるよう公式の映像をどんどん外に出していっていただきたいです。
ちなみに、現在ネパールの映画配給会社より、日本のアニメを短期上映したいと打診を受けているので、興味あるアニメ会社さんは是非ともご連絡ください!
ネパール首都カトマンズのアニメショップ
夕方、ワークショップを終えた私が「ネパールのアニメショップ行ってみたい……」と呟くと、
一緒にワークショップを企画してくれたOtaku Next幹部のLobsangさんが即座に調べてくれました。
「今日は日曜日でお店が全部閉まっているけれど、カトマンズの全アニメストアが一同に会しているフリーマーケットがちょうど開かれているらしい。行きたい?」
(*ネパールは週休一日で土曜日のみ休み。その代り平日は比較的学校など早く終わるので、放課後にお店に行く人が多いようです)
「行きたい!」
「じゃあ連れてくよ」
「Lobsangさん、バイクだよね? 私はタクシー使わないとだから現地合流する?」
「後ろ乗ってけばいいじゃん」
自分の乗っているバイクスクーターの後ろを指し示してくれるLobsangさん。
「え! いいの!?!?」
ワタシ、バイク、ダイスキ……。
以前東南アジアを旅した時のバイタク(バイクタクシー)も大好きだった自分、久々にバイクに乗せてもらえることが、そして何よりLobsangさんの優しさが嬉しくて、思わず舞い踊ってしまいます。
こうしてカトマンズ郊外にあるワークショップの会場から、一路バイクでカトマンズの繁華街タメルへ。
タメルに着くと、複層階の小型ショッピングモールのようなビルの中の催事会場へLobsangさんが案内してくれました。
『Summer Festival』と銘打たれたその会場では30あまりの店がブースを出しており、市内のアニメショップの出張ブースも5店ほど。
それぞれビクラム暦(ネパールの太陽暦)のカレンダー、缶バッジや携帯ケース、ストラップなどのグッズを売っていました。
このフェスにも出店していたアニメショップの一つ『Supreme Nepal Anime Store』へは後日実際に行ってきました。
ちなみにこちらも、Otaku NextのLobsangさんが連れてきてくれました。
自分の滞在中、終始彼から親切にしてもらい、ネパールのことが大好きになってしまいました。
旅先の国を好きになるか否かって、やっぱりそこで誰に出会うかに依るところが本当に大きい。
ネパールで一番品揃えがいいと言われているこのアニメショップが店を構えているのは、
カトマンズ市内からは少し離れたボダナート(現地の人はボウダと呼ぶ)。
フィギュアからコスプレ、また、大気汚染の著しいカトマンズで必需品のマスクや除菌ジェルまで揃っています。
全部海賊版商品だけどね!
中国から流れてきたものが多いと思われ、パッケージの文字などは中国語です。
フィギュアはメガハウスさんの商品なども置かれており、パッと見では本物なのですが、印刷や表情のクオリティ的に、パッケージまで完コピした精巧な海賊版のようでした。
日本円で3000円ほどという値段も、中古にしたって安すぎるし。
お店を出た後、ボダナートの観光名所ともなっているネパール最大のストゥーパ(仏塔)を訪れました。ストゥーパが鎮座する広場にはチベット仏教系のお店が軒を連ね、敬虔な仏教徒の方々がストゥーパの周りを時計回りにぐるぐる歩いている姿を見ることができます。
ストゥーパを囲む広場には展望カフェも多数あり、市民や観光客の憩いの場になっています。
この仏塔、アニメショップから徒歩3分ほどなので、ボダナートに来たからには見逃せません。
どどんと目立っていますので、見逃したくても見逃せそうにありませんが。
ネパールのアニメ事情
ボダナートの広場の展望カフェの一つに腰を落ち着けて、ネパールでどのようにアニメが楽しまれているか、Lobsangさんから話を聞きました。
・昔はANIMAXなどがアニメを流していたが、今はアニメを正規で見ることはほとんど不可能。
・ティーンズ一番人気はNARUTO、ONE PIECE。やはりこの二作品はダントツ人気。
・子供にはドラえもんが人気。(実際街中の様々な場所で公式非公式のグッズを見かけました。)
ドラえもんはインド版ヒンドゥー語の吹き替えが放送されているとのこと。
なお、ネパール語とヒンドゥー語には共通する部分が多く、都市人口の多くがヒンドゥー語を理解できるため、ネパールではインドドラマが大人気だそうです。なんでも、ハリウッドよりボリウッドをはじめとするインド映画の方がネパールでは人気だとか!
・最近のアニメも奮闘
全世界で大人気のヒロアカはネパールでも大好評。またいわゆるオタク層の間ではゴールデンカムイなど、比較的コア向けの作品も愛されているようです。もっとも、海賊版がその人気の後押しをしていることは否めない事実ですが。
ネパールは単体だと市場が小さすぎるので、インドの企業にパキスタンなども含めた南アジアとして地域包括ライセンス許諾するケースが多いのですが、そうするとインド国内では放送・配信されても、ネパールまでは届かない、という事態も起きてしまうのでしょう。
ネパール版少年ジャンプ!
ネパールでは先述のアニメイベント主催団体Otaku Nextがネパール人漫画家さんの作品を掲載した漫画雑誌を刊行していたこともあるそうです。
しかしながらデジタル漫画の興隆に伴って紙漫画の発行を続けることがコスト的に難しくなり、現在は休刊中とのこと。
同人誌的色合いの強い雑誌ではありますが、漫画は全て英語で描かれており、オンラインに移行して連載すれば世界中の読者にも届けることができそうです。
ネパールの愛に溢れた自作NARUTOレストラン&東京喰種カフェ
カトマンズから古都パタンに向け南東に下ったJhamsikhel地区には、なんとNARUTOをテーマにしたアニメカフェ、「Kyubi’s Kitchen」があります。
こちらのカフェレストランは2019年1月にオープンしたばかり。
オーナーでシェフでもあるFumetsuさんは、ネパールのアニメファンが集まれる場を設けたいとの思いでこのお店を作ったとのこと。
The First Anime Themed Restaurant in Nepalと謳っており、毎週金曜と土曜日にはお店でコスプレイベントも開いているのだとか。
お店の壁や部屋は全てNARUTOのイラストで飾られています。これらは全部オーナーさんのお友達やお客さんが描いたものなのだそう。
メニューは巻物!こだわりを感じます。
ネパール料理と日本料理が並んでいますが、その料理名も全部、「SUITON NO JUTSU(水遁の術)」などNARUTO風です。
一番人気は「ICHIRAKU RAMEN(一楽ラーメン)」、700 ルピー(=700円)。
ネパールでは日本のラーメンが食べられるお店がなく、それゆえアニメファンだけでなくラーメンを食べたいお客さんもこのKyubi’s Kitchenに来るのだそう。
ちなみにこちらのラーメンははなまるうどん方式。
麺、ダシ、具材などを選んで自分だけのラーメンを作る仕組みです。
私が注文したのは「ODAMA RASENGAN(大玉螺旋丸)」、 250ルピー(=250円。)
ネパール名物蒸し餃子のモモです。
このお店、一度目は(またしても!)Otaku NextのLobsangさんが連れてきてくれたのですが、カトマンズ滞在中にもう一度、今度は一人で訪問しました。
すると注文を持ってきてくれた店員の女の子が、私もここに座っていい? と私の前の席に。
しかも、「何か飲みたいものある? 私がおごってあげる」という優しい言葉をかけてくれました。泣いちゃうよ。
どうしてそんなに優しくしてくれるの? と尋ねると、彼女はふわりと微笑んで、
「Because you look so lonely.(だってあなた一人で寂しそうだったから)」
……憐みだったのね!?
一人でロンリーどころか、実際はお一人様万歳な人間のため思わず苦笑しちゃいましたが、
ひとり旅をしていて、こういう言葉をかけられたのは初めてだったので、なんだか温かな気持ちになりました。
話をしてみると、彼女は以前二年間日本の仙台に住んでいたとのこと。
働きながら日本語を勉強していたそうなのですが、毎日長時間の単純労働に睡眠時間を確保することもままならず、ネパールへ帰国を決めたそうです。
近年社会問題として表面化している技能実習制度の悪しき実態。
ネパールは本当に日本好きの方が多くて、滞在中には、アニメファンにとどまらず多くのネパールの人々が、日本に行きたい、とか、日本に行く予定だ、と話しかけてくれました。
一方で、せっかく日本に夢を抱いて渡ってきても、都合のいい労働力として搾取され、他の日本人と関わる機会も奪われ、失意のままに帰国する若者たちが非常に多い。
声高に批判するだけではいけないけれど、真剣に、一刻も早く、是正しなければならない問題だと思います。
店員の女の子に、もう一度日本に来たいですかと尋ねてみたら、彼女は困ったように首を傾げました。
その時私はそれを遠回しな「No」と解釈してしまったのですが、今これを書いていて、もしかしたら、とも思いました。私は勘違いしていたのかもしれない。あれは、ためらいありつつの「Yes」だったのではないか、と。
というのも、ネパールではボディーランゲージが日本と少し違っていて、頷く代わりに首を横に傾けるのがYesの意味になるのです。
たとえそれがただの理想に過ぎないとしても、これから彼女にそう思ってもらえるような日本社会にしてゆけたらいいと思います。
さて、NARUTOカフェ「Kyubi’s Kitchen」の一階には、「あんていく」という東京喰種テーマのカフェも入っています。
運営するのはKyubi’s Kitchenと同じオーナーさん。飲み物メインのカフェを併設したいと思い立ち、作中にカフェが出てくる作品……グールがいいんじゃないか?と、このお店を開いたそうです。
メニューは人間向けとグール向けに分かれています。
オーナーさん、さらに今後はワンピーステーマのレストランも開業予定とのことです。
ネパールのアニメイベントCom Cos Con、和気藹々としたコスプレショー
ネパールでもアニメイベントは開かれています。
その一つが毎年11月にカトマンズで開かれるOtaku Next主催のイベント、Com Cos Con。
コスプレファッションショーが目玉のイベントです。
以下は公式サイトに投稿されたイベントの模様をまとめた動画のリンクです。
雰囲気を知る参考にどうぞ!
以上、ネパールのアニメ事情レポートでした。
ネパール、人も街も文化も自然も料理も、多様性に溢れ何もかも素敵な土地だったので、
皆さんも航空券にはお気をつけて、是非旅してみてください。
ちなみに。
私はヒマラヤ山脈に登った後、麓の町ポカラがパラグライダーの聖地だというので人生初・パラグライダーのタンデムフライトも試してみたのですが、
めちゃくちゃ酔いました。
空を飛ぶのがずっと夢だったんです。
だからインストラクターのお兄さんと飛ぶ前に世間話をして仲良くなって、少しでも長く飛んでくれるように誘導するという姑息な真似までしたんです。
にもかかわらず、大空の真ん中で死ぬほど気持ち悪くなって、
お兄さんが「Are you happy?」って何度も聞きながらGo pro向けてくるのに引きつった笑顔を浮かべ続けるという苦行を体験することに……
お兄さん、「Do you want adventure〜?」とサービス精神でスピンしたりアクロバティックな飛行を入れてくれたりしてたのですが、
途中でさすがにこいつ様子がおかしいと気づいたのか、慌ててポケットからエチケット袋を取り出してくれて……なんとか着陸まで持ちこたえたけど、せっかく楽しませようとしてくれたのにごめんなさい……
私はパラグライダーには向いてなかったようです。
車酔い、船酔いしがちの方は、パラグライダー前の酔い止め薬服用をどうぞお忘れなきように。
でも大空から見下ろす大地は確かに壮麗でした!!
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