今回はおもいっきり趣味の話をする。
エドモントンという街をご存知だろうか。
そう問われたら、おそらく知らないと答える人の方が多いだろう。
エドモントンはカナダ内陸部にある同国第5位の人口を誇る都市なのだが、なんせ当のカナダ人をして「あんなショッピングセンターしかないようなところ」と言わしめるような街なのである。
街唯一と言っていい見所はアルバータ州議事堂と世界最大級のショッピングセンター、ウェスト・エドモントン・モール。
観光地としての魅力は、残念ながらバンクーバーやトロントに遠く及ばない。
しかし私はこのエドモントンという街に以前から行きたくて行きたくて仕方なかった。
一生に一度は何が何でも行かねばならぬと思っていた。
そこが私の敬愛するアニメ、機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ第一期の最終決戦の舞台となった場所だったからである。
そして2018年8月、カナダのバンクーバーとエドモントンでそれぞれ「AniRevo」「Animethon」というアニメイベントが開催されるのに合わせ、私はファンが言うところの聖地巡礼、作品舞台探訪の旅へと出かけた。
バックパックの中に、主人公三日月とオルガのフィギュア各1体、公式スピンオフである『3丁目のおるふぇんちゅ』のフィギュア全24種、ガンプラ3体(バルバトス、フラウロス、グシオンリベイク)、それから鉄華団の団服とオルガのシュマグを詰め込んで。
ネタバレ必至なので、本編未視聴の方はまずアニメを観てから読んでいただきたい。
今ならU-NEXTやdアニメストアなどで観ることができる。いっそガンダムファンクラブに入会してしまうのも手だ。
DVDかBDを買うのもよい考えだろう。特装版なら伊藤悠先生の特典漫画、鉄血日和も読める。
*今回の聖地巡礼にあたっては、エドモントン在住のNopyさんの以下のブログを参考にさせていただきました。心より感謝しています。
http://nopybot.com/2016/03/20/gundams-in-edmonton/
*本記事では、アニメ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』のカットを比較研究目的により引用しています。
作品・画像の著作権は©創通・サンライズ・MBSにすべて帰属します。
まずはバンクーバーへ
【行程】
8/3 東京〜バンクーバー(飛行機:Air Canada)
8/5 バンクーバー〜ジャスパー(鉄道:VIA)
8/9 ジャスパー〜エドモントン(バス:greyhound)
8/13 エドモントン〜東京(飛行機:Air Canada)
日本からエドモントンへは直行便がない。そのためまずはAir Canadaでバンクーバーへと向かう。
バンクーバーからは、乗り継ぎ便を利用すればエドモントンへわずか一時間半の距離なのだが、
今回の旅では飛行機の旅はバンクーバーまで。そこからエドモントンへは列車とバスで25時間ほどかけて向かう。
ちなみにバンクーバーからエドモントンまでの飛行機は片道一万円ほどだが、列車とバスの組み合わせだと二万円近くかかる。
しかし時間とお金が多少多くかかっても、
鉄血のオルフェンズの作中で、鉄華団の面々がエドモントンへ列車で向かっていたから、
私も陸路でエドモントン入りしたいと考えた。
作中で鉄華団が辿ったルートに忠実に行くならば、まずはアラスカのアンカレジまで船で行き、そこからフェアバンクス経由でエドモントンまで向かうのが正しい。
しかし調べてみたところ、アンカレジからフェアバンクスまではアラスカ鉄道で行けても、そこからカナダ内陸部へ向かう列車は残念ながら現状存在しないことが分かった。
(下の写真の地図ではフェアバンクスからホワイトホースも青い線=鉄路で結ばれているが、これに該当する路線は見つからなかった。)
バスであればアラスカとカナダを結ぶ路線がいくつか存在しているようなのだが、今回はアラスカ部分は諦め、バンクーバーからエドモントンへ向かう途中の町ジャスパーまで列車で、そしてジャスパーからエドモントンまでバスで向かう行程とした。
なお、鉄華団が乗っていた列車は黄色っぽい貨物車だが、アラスカ鉄道も車体が黄色なので、これがモデルではないかと思われる。
さて、そういうわけでまずはカナダの東海岸側の玄関口、バンクーバーへ到着。
緑と都会が見事に調和しており、多国籍多人種の人々が行き交う街の雰囲気と相まって、私はバンクーバーがすぐに大好きになった。
これは私の印象にすぎないが、男女にしろ、同性同士にしろ、手を繋いで歩く人が多いように感じ、微笑ましい気持ちになる。
ちょうどPride Paradeが開かれるタイミングだったからかもしれない。街にはどこもかしこも虹色が溢れていた。
それにしても、日が長いのがよい。8月頭のバンクーバーは日没が20:30から21:00頃。からりとした青空が一日中広がっていると、それだけで幸せな気持ちになる。
バンクーバーではHostelling International系列のホステルに宿泊。
ダウンタウンの中心にあるから楽ではあるが、オススメはできないかもしれない。
①とにかく高い(ドミトリー1泊5000円近く。これでも夏のバンクーバー中心部では最安)
②うるさい(大通りに面してるので、深夜三時くらいまで通りで騒ぐ若者の喧騒が響き渡っている)
バンクーバー市内はトラムやバスなど公共交通機関の便がいいので、中心街にこだわらずトラム数駅ぶん離れたところに泊まるのがよい気がする。
バンクーバーには二泊して、前回の投稿にも書いたがAniRevoというアニメイベントに参加(AniRevoについての記事はこちら)。
そしてカナダ三日目の朝に、VIA鉄道でジャスパーへと向かう。
VIA鉄道バンクーバー駅、余裕を持って発車三十分前に駅に着いたのだが、実際はもっと早く到着しなくてはいけなかったらしく、小型車で列車の乗り場まで送ってゆくから少しここで待て、と指示された。
(VIA鉄道は全長が長過ぎて駅舎に入りきらないので、車両を二つに分けて並べておき、先に前半分の車両を出発させ、線路の途中で連結するのだという! 私の乗る予定だった車両はすでに線路の先の方に移動してしまっていたために、小型車で移動することになったらしい。)
改札で待つこと三十分。電車の出発時刻になったが、小型車が来る気配も、電車が動き出す気配もない。
何かトラブルがあったのかと駅員さんに尋ねる。
「トラブルは無い。食堂車のエアコンが壊れているのを直しているだけだ」
「トラブルじゃん」
「いつものことだよ」
そのまま駅員さんと、どこ出身かなどよもやま話をするうちに、ようやく小型車が迎えにきてくれた。
小型車の出発直前に列車の行き先表示を撮影したのだが、行き先にエドモントンと表示があるだけで胸が高鳴って仕方ない。
ちなみに結局私の乗った列車はたいした遅れもなく無事出発できたのだが、VIAは遅延が多いらしく、12時間遅れたとのブログも見かけたし、公式予約ページにも「到着日と同日には遅れて困る予定を入れないこと」と書いてあるくらいなので、カナダ鉄道横断の際には余裕を持った旅程が必要そうだ。
列車は2等車両のエコノミーシート。
VIAにはクラスがいくつもあり、オルガと三日月さんが泊まった(と勝手に思っている)二人寝台個室などは一泊2000CAD=160,000円以上するのだけれど、
私が利用した最安のEscape Economyは座席only、バンクーバー〜ジャスパーで150CAD=12,000円ほど。このクラスなら、バンクーバー〜エドモントンも200CAD=16,000円ほどで移動できる。
エコノミーでも、割り当てられた座席とは別に展望車両を利用することができ、座席で眠らなければならないことだけ我慢すれば、なかなかに快適だ。
ただ、眺めは最高だったのだが、展望車両にしろエコノミーの座席にしろ、車内がキンキンに冷えていたので凍え死ぬかと思った。
エコノミー座席の人間は15ドルでブランケットを借りることができるのだけれど、さては強制的に借りさせようという目論見なんじゃないかと疑いたくなるくらい冷房が強烈に効いている。寒い。とにかく寒い。寒すぎてちっとも眠れない。
持ってきた服、タオルなど布類全てを身体中に巻きつけてもなお寒さに震えてしまうので、最後の手段、御守りがわりに持ってきていた鉄華団のジャケットとオルガ団長のシュマグをお借りしてしまった。
団長、あったけぇよ、オルガ団長……。
意図せずしてなんちゃってコスプレの人になってしまったわけだが、これがなければ凍死していたのではないかと思うほど、実に寒い車内であった。
そしてこちらはエコノミークラスの食堂車両。
蒔苗さんとクーデリアさんが話をしていた場面を思い出してしまうけれど、作中と比べると実物は若干安っぽい。
もしかしたらハイクラスの車両だともっと豪華で、作中のものに近かったのかもしれない。(エコノミーの人間がハイクラスの車両に入るのは禁止されていた。)
それでもソファの色などはどことなく似ていたので満足。
ちなみに食堂車の食事はバーガー1個10ドルほど。
ぼったくりというほどの値段ではないけれど節約したかったので、私は乗る前にスーパーで買った3個のりんごで昼と夜と朝をしのいだ。
このドア、私には下の画像のように見えた。
車窓の景色は街→草原・畑→山岳地帯と次々に変わる。河沿いに広がる大自然は全く見飽きることがない。
作業しようとPCを膝の上に乗せていたけれど、窓の外をぼんやりと見ていたらあっという間に10時間が経過していて愕然とした。
そんな景色を眺めながら、改めて、鉄華団がエドモントンへと向かう時の、山間を走る鉄道を写したカットが、かなしくなるくらい好きだと思った。
雄大な自然と、待ち受ける戦場を前に覚悟を決めた鉄華団の少年たちの引き締まった表情、どちらも凛と美しくて、けれど大きすぎる地球とちっぽけな彼らーー悠久の世界と、刹那を生きる少年たち、互いに互いをまったく気に留めていない感じ。
この列車に乗っていた鉄華団の少年たちのうち幾人かは、数日後には戦いの中で命を散らすことになる。
カナディアンロッキーの麓の町、ジャスパー
車内で一晩を過ごし、朝の7時半。
バンクーバーから20時間あまりの道のりを経て、ロッキー山脈の麓の町、ジャスパーへ到着。
ここで列車を降りずバンクーバーからエドモントンまでそのまま行くこともできたのだが、トレッキング好きゆえ、せっかくの列車旅でもあるしと途中下車することにしたのである。
山あいの町ということで覚悟はしていたけれど、到着時、朝の気温はわずか7度!
バンクーバーから夏服で来てしまった身からすると極寒である。(なお、内陸部で昼夜の寒暖差が大きいため、このあと日中は最高30度近くまで上がった。)
ジャスパーで泊まったのはバンクーバーと同じくHostelling International系列のHIジャスパー。
山小屋風の見た目の可愛らしい宿。一部屋あたりのベッド数20人分という超特大ドミトリーである。
ここがネットで検索すると一番安かったのだが、車を持っていない身からするとここも安物買いの銭失いだったかもしれない。
町中から遠く(中心部から1時間歩く)、町の中心部までは片道6ドルのシャトルが9時〜17時の一日6回しか出てないので、行動がかなり制限されてしまう。宿にはレンタサイクルがあるが、一日1000円近くかかり、さらにホステルまでは長い坂道を登ってゆかなければならないのでかなり辛い。そもそもJasper自体、公共交通網はほぼなく、車無しで見て回るのはなかなかに骨だ。
私は滞在中一度、困った末にヒッチハイクもした。
(しかし今調べてみたところ、どうやら2019年の夏にJasperのホステルはダウンタウンのすぐ近くにリニューアルオープンするらしい!)
ホステルには朝食がついてないので基本三食全部自炊。
物価が高い国は宿で自炊を心がけているのだけれど、問題は普段日本のコンビニに飼いならされている私の料理力がクーデリアさん以下だということ……スーパーで安売りしていたお肉とパプリカを買って塩胡椒で炒めてみたけれど、案の定肉はゴムみたいだしめちゃくちゃまずかった。
お肉がうまくいかなかったので、今度はコーンを茹でてみた。鉄血のオルフェンズといえばとうもろこし。
これがとんでもなく甘く、幸せそのものであった。今度から夏の海外で自炊する時はひたすらとうもろこしを茹でまくろうと思う。
そしてお楽しみのトレッキング。山へ湖へ、とにかく歩き尽くす。
ジャスパーには三泊して日の出から日没までとにかく歩き続けた。
そして四日目の朝一番、7:00発の長距離バス、greyhoundでついにエドモントンへと出発。
(なお、この区間のgreyhoundは現在運行停止してしまったそうで、Sun Dogという別のバス会社が同区間をカバーしている。
オフシーズンには走らないこともあるそうなので、行かれる方は事前によく確認してから向かうのが吉。)
本当はジャスパー〜エドモントンもVIA鉄道で移動して、アニメに忠実にエドモントン鉄道INしたかったのだが、
予約を取るとき列車がエドモントン深夜到着のものしかなく、これではエドモントン郊外の景色が見られないからとバスにした。
しかし7月頭に突然VIA鉄道から「スケジュールが変更になったよ!」とアナウンスがあり、エドモントン夕方到着の便ができたことを知り、そうと知っていれば鉄道にしたのにと地団駄を踏んだ……。
ただ鉄道とバスだと、バスの方が半分の価格でしかも早く着くので、予算と効率的には断然バス一択。
バスの方が列車より4000円近く安く、5000円でジャスパーからエドモントンまで行くことができた。
車窓の風景を楽しむこと5時間、エドモントンへは同日12:00に到着。
エドモントン市内入りの風景は、バスも列車も西から街の北に入る形になるので、
残念ながらアニメ本編のようにノース・サスカチュワン河越しに街を臨みつつ、というルートにはならない。
山間を抜け、草原と乾いた郊外の家屋が見えてきたなぁと思ったら、何の変哲もないハイウェイを走り抜けてそのままターミナルに到着。
思うに、鉄華団の辿った道に近いのは、(方角的には北西からエドモントンに入らないとおかしいのだけど、回りこんだとして)街の南東に位置する、上の地図だと青矢印の先端に当たる灰色のターミナルへ続く鉄路かと思われる。
そしてこのターミナルの辺りに、鉄華団の布陣していた廃駅があると考えられる。
(下の地図の廃駅候補①)。
ターミナルらしきものの周辺には実際に貨物車限定の路線があり、Google Mapではたくさんの車両やコンテナが確認できる。しかしこの路線、旅客輸送には使われていないので、乗ることはできない。
ちなみに鉄華団が布陣していた廃駅は作中ではこのように描かれている。
作中では駅の裏手に炭坑跡があるのだが、実際エドモントン近郊に炭坑はないため、これはおそらく創作だろう。
なお、滞在中、私も実際にこの廃駅候補地まで歩いて行ってみたのだが、雨が降っていたこともあり非常に陰鬱であった。
とにかく、そのようにしてエドモントンへと到着し、バスターミナルから市内へと向かった。
しかしそこはさすが格安バス会社greyhound。
街中へアクセスするための無料シャトルに間違った時間を教える。(結果私はシャトルを乗り逃す。)
そのあと「ここからはしばらく市内へ行くシャトルないので一旦南のターミナルへ移動しろ」と言われ、その南ターミナルはどこにあるのですかと尋ねたら、「私は北ターミナルで働いているので南ターミナルのことは知らない」との答え。
それでもなんとか南ターミナルへ向かうバスを見つけて乗ることができ、南ターミナルから市内を目指したのだが、今度は市バス乗り継ぎに失敗し夏空の下(35度!)スーツケースを引きずって二時間徒歩移動……ようやくエドモントン市内、予約していたAirbnbの宿へ辿り着いたのだった。
可愛らしいお家である。
ホステルに泊まっても良かったのだが、タカキやフウカ、アストンがエドモントンで暮らしていた時の感覚を味わいたくて、普通の家に泊まる体験ができる民泊を選択。一泊2000円くらいでホステルより安いし、暖炉もある素敵なお家だ。
オーナーさんは起業家の女性で、とても親切にしてくれた。
スーツケースを置いたところで、ついに聖地巡礼開始である。
エドモントン鉄血舞台探訪
エドモントンの街は、街の中心部を流れるノース・サスカチュワン河によって北と南に分けられている。
河沿いには緑地帯が広がり、それがビルの群立するこの街を見事に自然と調和させて見せている。
私の泊まる家は南側のアルバータ大学近くにあるため、北側のダウンタウンへ向かうには、どこかで橋を渡らなければならない。
ちなみに南側の宿を選んだのは、もちろん鉄華団が布陣していた側だからである。
そして橋といえば。
鉄華団とギャラルホルンが橋を挟んで対峙していた24話冒頭だ。
この橋がどこにあるのか突き止め、そこを渡ってゆかなければならない。
以下に掲載するのは先ほどと同じ地図になるが、廃駅との距離(公式設定資料集メカニック&ワールドによると3km)や、議事堂との位置関係、奥に別の橋があること(上の画像上部にかろうじて見えるが、破壊された橋がある)、また構造が似ているという理由で、私は鉄華団が渡ったのは赤で示したJames Macdonald Bridgeだと仮定した。
(ただ、設定集では美術設定の寺岡さんが「『味方側は右』というお芝居の上下のお約束があるので、最初に描いた配置図から左右を反転させました」とも語っていらっしゃるので、どこかで地図を反転させて考える必要があったのかもしれない)
James Macdonald Bridgeには左右に街灯が設置されている。上の二枚の画像を比較してもらうと、この形が作中で鉄華団が渡った橋のものと一致していることが分かる。周辺の他の橋も調べてみたが、同様の構造の橋は他に存在しなかった。
橋を渡ることに四時間あまりを費やしてしまったのだが、エドモントンのダウンタウンへ。
ところでエドモントンは別名フェスティバルシティとも呼ばれている。
冬には雪に閉ざされる同地は、短い夏を数多のお祭りやイベントで謳歌するのである。
今回私はエドモントンで行われるイベントの一つ、アニメコンベンションAnimethonに合わせて渡航していた。
Animethonの会場となるShaw Conference Centerはダウンタウンの東に位置しており、橋を渡ったあと、あるいはトラムやバスの最寄駅を降りたあと、大通りJasper Avenueを歩いて向かうことになる。(Animethonについては前回の記事をご参照ください)
そしてこのJasper Avenueこそが、鉄血のオルフェンズ一期最終決戦の舞台である。
アニメ本編において、おそらくはギャラルホルンの兵士を避けてのことだと思うのだが、オルガたちは河を渡ったあと直接議事堂へは向かわず、一旦西側の109stとJasper Avenueの交差点へ向かい、グレイズアインに襲撃される。
そこへ三日月駆るバルバトスがJasper Avenueを東から西へと一気に飛んで駆けつけ、以降、オルガ・クーデリア組は議事堂へ、三日月はアインとの戦闘へと突入する。
それぞれが辿ったルートはおそらく現実に相当するものはなく、創作が幾分含まれているとは思うが、映り込んだ景色から判断するに、おそらく以下のようなものになる。
赤:オルガ・クーデリア組 (東から西へ:実際には橋ではなく、その南側の浅瀬を渡っている)
青:三日月(バルバトス)(東から西へ)
緑:三日月とアイン (西から東へ)……Jasper Avenue
オレンジ:議事堂へクーデリアを送り届けたあと、三日月の戦いを見届けに向かうオルガのモビルワーカー(議事堂からセーフハウス方面経由で109stへ)
図の緑の経路、すなわち、グレイズアインがクーデリアを襲撃し、駆けつけた三日月が会敵することになる109stから、最終決戦を追うようにJasper Avenueを西から東へ進み、三日月がグレイズアインを破る102stまでを歩いてみた。
まずはJasper Avenueと102stの交差点。
24話最後のシーン。ここは大幅な改修が行われたそうで、左側のビルに辛うじて面影が残る。
オルガ、クーデリア、アトラの窮地に、バルバトスがJasper Avenueをまっすぐに駆けつける。
そして25話冒頭二人の戦闘場面に出てくるJasper Avenueと108street交差点。
黄色のMoneymart(画像左下、作中Monkeymart)や、右側の山のマークが描かれた建物がアニメと一致している。
三日月とアインが戦いを繰り広げる間に、オルガたちはクーデリアと蒔苗を議事堂へと送り届ける。
その後オルガとタカキはセーフハウスへ。
このセーフハウス自体は実在しないが、Nopyさんのブログ情報を元に、左側のビルの窓の形から、おそらくそれが位置する場所までは行くことができた。
一方三日月とアインの戦闘に戻り、こちらが102stとJasper Avenueの交差点。
109stでの戦闘開始から実に7ブロックも三日月が押されている。この戦いが三日月にとって、防戦一方の厳しいものであったことが、この距離からも伝わってくる。
左のビルの特徴的なガラス窓(作中ではガラスと石壁部分が逆転)と、右の建物壁面の赤いマークも、現実とアニメで一致していることが分かる。
グレイズアインの猛攻を受け、振りかざされた戦斧を前に、諦めたかのように瞳を閉じた三日月。
と、そこへ!
オルガがモビルワーカーで駆けつける!
もうね、本当に好きな場面。いや、好きなんて言葉では足りない。この叫びを聞くために私は生きてきた。これからも生きる。
魂を揺さぶられる絶叫なんです。この一言にオルガ・イツカと三日月・オーガスという人間の複雑なようでいて実に純粋な関係性が集約されている。諦めようとする相手、命を手放そうとする相手に対する、生きろでも死ぬなでも諦めるなでもなく、渾身の、何やってんだ、ですよ。
お互いをより高みへと引き上げ、生きることを相手に課す。求める。お前は存在していなくてはいけない。なぜか。愚問である。理由ではなく、そこには二人の約束がある。ここじゃないどこかへ辿りつくという約束。
そんな相手を見出してしまったこの二人は諦めざるをえないほど不幸せで、何人も太刀打ちできないくらい言祝がれた存在だと思う。
なんなんだこの二人……という感じの三日月とオルガだけど、その核心のひとつが、22話の「連れてってくれ」「連れてってやるよ」からつらなる25話のこの言葉だと思う。凄まじいな。好きだ。
これ書きながらも思い出して涙出てきた。
頭の中で鉄血のテーマが流れだす。横山克さん作曲の『Mobile Suit Gundam : Iron-Blooded Orphans』って、英語版の作品名と同じタイトルの曲なんですけど、たぶんアニメ見てなくても心に響くもののある、そしてアニメを見ていれば胸の奥底からせぐり上げるもののある、ほんとうに素晴らしい楽曲なんです。
この場面、上の画像、オルガの後ろの右側奥にぼやけて映る緑と黄色の看板と同じものが、現実のエドモントンにもあります(下画像左側ビル壁面)。
ところで手前のゴミ箱……エドモントンにあるゴミ箱は皆このデザインなのですが、どこかバルバトスのマークに似てません??
そしてついに三日月が激闘を制した瞬間。
この感覚をなんと表現すればよいのだろう。
聖地巡礼って言葉が便利だから使ってしまうけれど、大好きなフィクションの舞台を訪れたい、訪れずにはいられない人間心理というのは、実在しない故郷を探す試みに似ている。
ここに彼らがいた(かもしれない)という懐かしさ。いつかの時代にもし彼らがいたならば、きっとこんな風を感じて、こんな色の空を見て、こんなざわめきを聞いて、そして生きたのだろうと、そうやって想いを馳せることができる、フィクショナルな記憶の中の故郷。
エドモントンに来て、戦闘の場所を歩いて、改めて25話のアインVS三日月の戦いの激しさを思った。
上にも書いたが、アイン襲撃地点が109st、戦闘終了のラストシーンは102stなので、三日月さんはアインを食い止める間にJasper Avenueを7ブロックも半ば一方的に押されている。距離にして約1kmだ。
ひたすらに歩きながら、それは三日月さんが諦めたように目を閉じるだけの絶望の距離でもあったと感じた。
そこに駆けつけたオルガはガンダム同士の戦いのすぐそばまで身を投じている。
オルガが叫んだだろうその場所に実際立ってみる。バルバトスとアインが対峙していた場所はすぐそこだ。オルガは肉声がちゃんと三日月さんに届く場所まで近づこうとしたのだろう。
三日月:「ここがそうなの? 俺たちの本当の居場所」
オルガ:「ああ。ここもその一つだ」
三日月:「そっか、きれいだね……」
現実のJasper Avenueは浮浪者が行き交い、あちこち工事中で、おまけにゴミも散らばっている。
それでもビルの間に覗く夕焼けを見た瞬間、やっぱりきれいだ、と呟いてしまった。
火星からと東京から。かたや戦いの末に、かたや観光の後に。彼らと私がここへ至る途上で経た困難は比較などできないけれど、
彼らも抱いただろう、ようやく辿りついたのだという感慨が胸の奥からじわじわとこみ上げて、私はほんとうに、この場所に来てよかったと思った。
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以下は、Jasper Avenue以外にエドモントンで訪れた作品ゆかりの場所の数々。
Jasper Avenue周辺
24話、オルガたちが議事堂へ向かう時の100Avenue。赤い看板は作中でBankBankに改名されていたScotiabank。
エドモントン、工事中の場所が本当に多くて、作中で封鎖されていたこのCity Center Mall周辺の通り、本当に封鎖されて立ち入り禁止だったのでフェンス越しに撮影。
LCSドローンを打ち上げる時にタカキが屋上に立っていたと思われるManulife Place。上に登れないかと周辺ウロウロしてたら警備員さんに不審者と間違われて呼び止められてしまった。
「街を一望したいんです」と言ったら観光客だと分かってくれたようで丁寧に周囲の展望スポットまで探してくれたのだけど、残念ながら一般人が登れるようなビルは無いらしく、タカキの追体験はできなかった。
アーブラウ議事堂
作中での鉄華団の目的地であり、クーデリアが演説をしたアーブラウ議事堂のモデルと推定される、アルバータ州議事堂。
作中だとモダンな作りになっているが、実際の州議事堂はクラシカルな外見をしている。
アルバータ州議事堂は、誰でも無料ツアーで中を見学することができる。
入り口でセキュリティチェックを受けるのだが、警備の強面のお兄さんに、「入場料1000ドルだから」と言われて、
「え、無料だと聞いてたのだけど……有料になったの? あれ? あれ?」
とまごまごしていたら、「冗談だよ」と笑われてしまった。分かりづらいよ。
内部はそっくりというわけではないが、この場所でクーデリアさんが演説を……と思ったら感無量。
佇んでいるうちにツアーに置いていかれた。
ウノ兄妹とアストンが過ごした家
アストンとタカキ、フウカが過ごした家のあるようなヨーロッパ風の街並みや階段がないか、現地の方々に聞き込みしてみたのだが、残念ながらこのような街並みは現在のエドモントンにはないということ。
しかし候補として、下に写真をあげた「オールドストラスコーナ」という地区が、「煉瓦造りの古い建物が残る歴史保存地区」などとガイドブックなどに紹介されているので、そのイメージから描き出された街並みなのかもしれない。
歳星
また、Animethonの会場となったShow Conference Centerが、作中に出てくる「歳星」にどことなく似ているとnopyさんが指摘されていたが、確かにそうも見えるなあと思った。
Animethonのガンダムファンパネルでは、エドモントンが鉄血の舞台に選ばれたことについて現地ガンダムファンの方々が、なんでだろうと驚きながらも、こうして作品と繋がりができることは非常に光栄なことだと話していた。
ところで当然と言えば当然なのだが、北米でガンダムファンというと=メカファン、ガンプラファン。パネルの参加者も95%男性。
私ももちろん鉄血のメカデザインは大好きだし、好きなキャラの機体のガンプラは購入するが、機体以前にキャラクターやストーリーが好きなので、海外でももっとそうした切り口から作品に女性ファンがつかないものかと思っているのだけれど……。海外の友人たちに鉄血をオススメして、「でもメカでしょ? メカはちょっと」と言われると、私はとてももどかしい。
なお、現地の主催者さんにガンダムの人気状況についてヒアリングしてみたところ、「Wは幅広い層に人気だった。最後にガンダムが北米で人気だったのはSEED。それ以降はあまり」とのこと。確かに私のロサンゼルス留学時代の親友も、SEEDのアスラン・ザラの大ファンだった。鉄血も好きになってくれ。
Animethonの会場で現地のガンプラショップが鉄血のポストカード配っていたのでもらってきてしまった。めちゃくちゃ喜んでいたらもう一枚くれた。
とうもろこし畑
鉄血のオルフェンズでは、とうもろこし畑がオルガと三日月、鉄華団にとっての夢を象徴する存在として随所に登場する。
エドモントンは北米大陸の一大穀物生産地グレートプレーンズと重なるし、どこかにとうもろこし畑がないものかと調べていたら、エドモントン郊外にとうもろこし畑があることを発見。
『Edmonton Corn Maze』……とうもろこし畑の迷路だ。
滞在中、天気のいい日を選び、自転車で往復五時間ほどかけて行ってみた。
入場料13CAD=約1000円を支払って、迷路の中へ。
といっても、迷路自体にはあまり興味はなかったので、写真を撮ったり、とうもろこしのみずみずしい匂いや、風に葉が揺れる音をのんびり楽しむ。
入場料は取られてしまうが、畑の中を自由に歩き回ることができるのは嬉しい。
人もほとんどいないので、一人で畑の中に佇み、若草の匂いに包まれて過ごす。とても落ちつく。
ただ、とても、暑い。
暑さにやられないうちに、朝のうちに作って持ってきたサンドイッチを食べ、エドモントンの街中へと戻ることにする。
しかし帰り道、自転車を猛スピードで飛ばしていたら坂道で転倒。勢い余って地面三回転半。
全身擦り傷だらけになったものの、背中のバッグに入れていたガンプラは奇跡的に全部無事だった。
肘をしたたかに打ったせいで数日間痛みで片腕が動かせなくなったのだが、それすらも三日月さんとお揃いだと思えば全然辛くない。
ちなみにこの時私は鉄血のオルフェンズのTシャツを着ていて、傷口を洗うために駆けこんだ近所の幼稚園で、子供に「オルフェン(孤児)って書いてある〜」と指さされてしまったのが、ちょっぴり恥ずかしかった。
墓地
少し不謹慎かもしれないが、最終話でクーデリアがユージン、タカキ、アレジさんと共に訪れた、蒔苗さんが埋葬されていると思われる墓地『Edmonton Cemetery』にも行ってみた。エドモントンに7つある市営墓地のうちのひとつである。
ただこの近辺はだいぶ治安が悪そうだったので、あまり近づかないほうがいいかもしれない。
私も自転車だったからよかったようなもので、徒歩だと少し危険だったかもしれないと感じた。
感想:なぜエドモントンが鉄血の舞台に選ばれたのか。
エドモントンには四日間滞在していた。
長めの日数を確保したのは、ただ作中に描かれた場所を訪れるだけでなく、描かれなかった場所をこそ見て回りたいと思ったためだ。そうすることで、作品内で描かれなかった時間に、キャラクターたちがどのように過ごしたかを想像することができる。
一期のエドモントン戦後、火星へ帰るまでに鉄華団のみんなはどんな時を過ごしただろう。
二期でタカキやアストン、フウカはどんな毎日を送っていただろう。
なぜエドモントンが舞台に選ばれたのかについては、Animethonのパネルで地元のガンダムファンも頭をひねっていた。
その答えは分からない。
ただ、今回エドモントンを訪れてみて、こじつけ的な感想ながら、この場所は確かに鉄血のオルフェンズ一期の決戦舞台としてふさわしい、と感じた。
まず高層ビルと河と緑が見事に三層をなし調和しているところ。
経済発展+豊かな自然という、鉄血世界における地球の象徴(=富める側の象徴)のような街は、火星からはるばる来た鉄華団が目指した場所、辿りつくべき場所の姿として分かりやすい。
それと語弊がありそうだけれど、エドモントン中心部の寂れ具合と生活感の欠如。
決戦の舞台となった目抜き通りのJasper Avenue周辺は、封鎖などしなくても人通りが少なく、おそらく作品内で行われたような一般市民の立ち入り制限もかけやすそうだと感じた。つまり、巨大な機体同士の戦闘場所としても最適。
作品内での描写から想像するに、鉄血世界では、アーブラウの行政の中心はエドモントンであったとしても、経済・生活の中心は別の都市だったのではないだろうか。位置づけ的にはエドモントン≒ワシントンDCのような。
もしたとえば今のNYのような経済・文化・メディアの中心地が舞台だったら、戦闘は人々にとってもっと自分ごとだったと思う。
だけどエドモントンでは、それは政治・歴史的事件として記録はされても、人々の生(なま)の記憶としては残りづらかったのではないか。
そして鉄華団はどこか世間と乖離したまま、人々にとって遠い世界の子供たちのまま、あの最期へと突き進んでゆかざるをえなかった。
(もっとも、一期の後にギャラホ批判が高まり各経済圏軍拡など大きな変化があったから、「人ごとであった」とは言えないのだけれど……)
私は鉄血のオルフェンズを、一般市民の第三者的視点を極力排除しあくまで「彼らの物語」として感情移入できるように描いたアニメと解釈しているから、エドモントンダウンタウンのある種の空虚さは、そんな鉄血の舞台としてふさわしいように感じました、というつぶやき。
帰りの空港にて
こうして四日間の滞在を終え、ついに日本へ帰る時が来た。
帰りはエドモントン空港から、バンクーバー経由のAir Canadaで日本へ。
空港でたまたま覗いたおみやげ屋さんで、なんと狼マグネットを見つける。
ルプス! ルプスやん!!! と興奮する私。
(ルプス=狼。鉄血のオルフェンズでは、鉄華団は狼にも喩えられる。作中でマクギリスが実際に鉄華団をして狼の群れになぞらえているし、三日月の乗るガンダムバルバトスは二期で改修後にバルバトスルプスと名付けられる。さらに言うと、一期OPを歌うMan with a Missionも狼?のような見た目だ)
カナダの赤い国旗もまた、どことなく鉄華団のマークを彷彿とさせる。
普段お土産など見向きもしない自分もこの時ばかりは狼グッズを買い込み、帰りの飛行機へ搭乗。
雲の下の大地を見下ろしながら、大気圏突入の時に見る景色とはこのようなものなのだろうかなどと想いを馳せる。
以上、自分用のメモのような雑なものですが、鉄血のオルフェンズ、エドモントン聖地巡礼記でした。
最後に、エドモントンの地元新聞に鉄血が取り上げられた時の記事のpdfを見つけたので共有。
3ページ目「Edmonton smashed by robots」。
https://rm.metrolatam.com/pdf/2016/03/24/20160324_edmonton.pdf
鉄血のオルフェンズ、心の底から大好きです。
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