エドモントンという街をご存じでしょうか。
カナダの太平洋沿岸の街バンクーバーから、大陸横断鉄道VIA Railでロッキー山脈を越え進むこと約28時間。
同国の中央に広がる大平原プレーリーのただ中、蛇行するノース・サスカチュワン河沿いに、自然と都市が調和したその街はあります。
(※なお、わざわざ鉄道に揺られずとも、バンクーバーから飛行機で向かえば一時間半ほどであっという間に着きます。)
私がエドモントンを――そしてそこで開かれるアニメイベント、Animethonを――知ったのは、アニメ「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」がきっかけでした。
この作品をご覧になった方は、第一期の終盤でエドモントンが激闘の舞台に選ばれたことをご存じかと思います。
同アニメのファンである自分は、エドモントンへの聖地巡礼をかねてより画策しておりました。(聖地巡礼記については次回ポストにて)
そのための情報収集を行う中で出会ったのが、作中に映し出された路地や街角の店を実際のエドモントンの風景と照合してある、いわゆる一つの神ブログ。
さっそくブログ主さんに連絡を取ってみたところ、その方がなんと現地のアニメイベント、Animethonの運営スタッフの一人でもあると判明!
海外アニメイベント調査が趣味の自分、大喜び。
すぐさまAnimethonの開催時期に合わせて聖地巡礼を決行することにし、カナダまでの往復航空券を予約したのでした。
それが昨年5月のことです。イベント訪問&聖地巡礼は2018年8月。そう、半年前にこの記事を書いて、公開をすっかり忘れておりました。
そんな今更すぎる投稿ですが、毎年夏に開かれているカナダのアニメイベント、「AniRevo@バンクーバー」と「Animethon@エドモントン」の参加レポートです。
以下、それぞれのイベントの様子を踏まえながらカナダ(北米)のアニメ市場について思ったことを書き留めておきます。
①カナダのアニメイベント紹介
AniRevo(Anime Revolution)@バンクーバー
REATIVITY X INSPIRATION X COLLABORATION
Anirevo aims to be the stimulus that inspires the discovery of creative outlets and skills that allow for self-expression through exposure and celebration of both Japan pop culture and animation.
AniRevoはバンクーバーで毎年夏、3日間開かれている総合アニメコンベンション。
一日参加券55ドル、三日間通し券75ドル(これに+税金がかかるので実際はもう少し高値)
会場はバンクーバーの街中にあるVancouver Convention Center。三日間の参加者数は17,000~20,000人。
冬にも開催されているが、こちらは夏より小規模で、大学の敷地内で行われる。
https://summer.animerevolution.ca/
詳細については公式HPが丁寧な日本語ページを用意してくれているので、是非参考にしてみてください。
Animethon@エドモントン
Animethon is a Japanese Animation (“anime”) themed festival held annually in the city of Edmonton, Alberta, Canada. We have expanded our focus beyond screening anime and now also include voice actor guests from North America, musical acts from North America and Japan, improvisation groups, as well as various related activities such as gaming, costume contests, and more. Animethon, as of 2004, is operated by the Alberta Society for Asian Popular Arts (ASAPA).
Animethonはカナダ中部のアルバータ州エドモントンで毎年夏に開かれている総合アニメコンベンション。2018年で25周年。
一日券40ドル、三日間遠し券50ドル(事前購入の場合。当日券だと60ドル。)
エドモントンのShaw Conference Centerにて開催。参加者数は8,000~9,000人。
冬にはA Taste of AnimethonというAnimethonの小規模版が大学の敷地内で行われる。
https://animethon.org/
カナダの参加者一万人前後の規模のアニメイベントとしては他に、モントリオールで開かれているOtakuthon、カルガリーのOtafestなどがあります。
・Otakuthon
http://otakuthon.com/2018/home/
モントリオールで開催。2018年には約23,000人が参加。
・Otafest
https://otafest.com/about/
カルガリーで開催。2018年には9,500人参加。
毎年の入場者数に加え、公式HPではその年のチャリティー寄付金額も一覧で見られるようになっています。
(日本のコミケも森林保護基金を呼びかけていますが、海外の個人主催のアニメイベントでも、募金活動を合わせて行っているものをたびたび見かけます。)
②北米アニメトレンド2018:三強は「ダリフラ」「ヒロアカ」「ヴァイオレットエヴァーガーデン」
カナダのアニメファンのトレンドは概ねアメリカと同じと言ってよいかと思います。
特に今回自分が訪れたのが英語圏にあたるエリアだったからかもしれませんが、
イベントでの両国のファンの行き来も盛んなようで、今回お会いしたイベント主催者の妹さんは同人作家として同時期にアメリカ・ワシントンDCで開催されていたOtakonに参加していたというし、逆にAniRevoやAnimethonのArtist Alley(同人エリア)にもアメリカの作家さんが国境を越え数多く参加していました。
アニメは主にCrunchyrollで見ることが多いというのもアメリカと共通です。
(カナダの中でもフランス語圏のファンがどうかについては気になるところですが。)
なお、2017年の夏、アニメに力を入れることを宣言し、実際日本国内ではアニメのラインナップが非常に充実しているNetflixですが、
英語圏ではまだそこまで「アニメ見るならNetflix」とはなっていないとのこと。
これはアメリカのアニメファンのPodcastで聞いたことの受け売りでもあるのですが、
Netflixが作品の質担保のためにアニメ作品の数を意図的に絞っているからかもしれません。
(※Netflixで配信されているアニメ作品の一部は日本国内での配信に限られている。カナダ旅中、現地Netflixで見ることができるアニメが思ったより少なくてびっくりしました。)
幅広いアニメ作品を観たいコアなアニメファン向けに、あらゆるアニメ作品を可能な限り網羅するCrunchyroll、
普段実写映画やドラマを見ている一般層に厳選された良アニメを提供する場としてのNetflixと、
住み分けがなされている印象です。
アニメに対する目の肥えた日本人や海外のアニメファンであれば、ひとえにアニメといってもいかに多様で(言ってしまえば)玉石混淆かが分かっていますが、
普段まったくアニメを見ないユーザーは、最初に目にしたアニメの出来が悪ければ日本アニメというジャンルそれ自体を見限ってしまうかもしれない。
アニメファン以外の利用者が多いNetflixは、新規アニメファン獲得の可能性を秘めているからこそ、いたずらにアニメの数を増やすべきではない(少なくとも、アニメが一つのジャンルとして受け入れられていない段階では)というのが、
私が耳にした英語圏のアニメファンの見解でした。
しかしレコメンデーション機能がきちんと働いていれば、アニメビギナーのトップページにはその人の好みに合った粒ぞろいの作品ばかりが並ぶようにもできるはずなので、
Netflixはこれから更に海外向けアニメのリストを拡充していく可能性もおおいにあると思います。
ちなみに2018年、そんなNetflixで世界同時独占配信が行われた「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」、イベントで見たところポスターなどのグッズがどのブースでも売り切れており大人気でした。
Netflixオリジナルの「Devil man crybaby」も、会場でコスプレや同人作品を見かけることはありませんでしたが、女性アニメファンの間に一大旋風を巻き起こしたと、現地イベント主催者の方が名前を挙げていました。
自分の身の回りでもDevil man crybabyはヒートアップしているのを感じていました。私個人もこのアニメが見たくてNetflixに入会しました。
ただ、はたしてアニメファン以外のNetflixユーザーにこれらの作品はリーチできたのか、気になります。
英語圏の映画・ドラマレビューサイト「Rotten Tomatoes」では、約300人のユーザーがレビューを残していましたが……(参考までにSword Art Online : Ordinal Scaleは1,000人、One Piece Film : GOLDは250人)。
その他の作品で人気だったのは「ダーリン・イン・ザ・フランキス」。
ゼロツーのコスプレイヤー、ポスターなども同時期放映の他作品より多く見かけました。
ですが海外オタクのPodcastではダリフラに対して、前半ほぼ内容が無いようなストーリーがだらだら続き、後半一期に詰め込み過ぎた、とか、セックスを思わせるシーンが多すぎた、という厳しい批判も聞かれました。
私もとっても楽しみにしていたし、「今の世代のエヴァ」と評している知人もいたので気にはなっている作品なのですが、あのドギースタイルを思わせる体勢をどうしても受け入れることができず、三話以降ごめんなさいしてしまいました……。
そしてダントツの人気を誇っていた作品、「僕のヒーローアカデミア」。
現地の方にここ最近の大人気タイトルを訊いてみると、
誰もが声を揃えて「僕のヒーローアカデミア」と答えていました。
ヒロアカは会場でのコスプレイヤーさんの数も段違い。主人公緑谷出久の母に扮し「I love my son」と書かれたプラカードを掲げるなど、変化球のコスプレでギャザリングを賑わせているレイヤーさんもいらっしゃいました。
ただ、ヒロアカは一つのトレンドにはなっているものの、一時期の進撃ほどの社会的ブームにはなっていないようです。進撃ブームの時私はちょうどロサンゼルスに留学していたのですが、アニメと全く関係のないヴェニスビーチの海の家などでも進撃のTシャツを売ってましたからね。
当時と比べると、今のアニメ界隈は超大作不在の間期のような印象を受けました。
このように人気作品はアメリカとほぼ共通しているように思われるカナダのアニメイベントですが、ゲストにはカナダ人グループやアーティストも招かれており、ローカルコミュニティを大事にしている姿勢も感じられました。
たとえばAniRevoでもEdmontonでもゲスト公演を披露し多くの観客を沸かせていた即興コメディ集団「404」。
それからAnimethonではエドモントンを拠点にした映像制作会社Metadata Studiosがイベント初日に初音ミクのライブコンサートを開き、主催者によると1500人が集まる大盛況だったそうです。
③さらにイベント会場を散策。AMVでやっぱり人気なのは……?
Artist Alley(同人エリア)はやはり基本ポスター販売。
こんなにポスター買ってどうすんの!?と思ってしまうくらいポスターばかり売っています。
現地のファンに、こんなにポスター買う人いるの?と聞いてみたところ、
「日本じゃ家が小さいから貼れないのだろうけど、こっちは家が大きいからポスターの需要があるんだよ」というご回答をいただきました。ナイスサーカズム!
Artist Alley/ Dealers Roomエリアで私が気になったのがこちらのブース「Animebae」。
アニメ風のイラストをスタイリッシュにあしらったTシャツの販売ブース。カナダ発の、アニメにインスパイアされたシンプルデザインのファッションブランドだということで、若者で賑わっていました。
https://animebae.co/
日本のアニメ系Tシャツ販売会社さんもつれてゆきたい。
AMVコンテストにも参加してみました。
AMVとは日本で言うMAD動画。ファンがアニメをベースに編集して作った動画コンテンツです。
(参考:AMVコンテスト〜海外版MADの不動の人気!〜)
海外のアニメイベントではとにかくAMVのコンテストが大人気。
特にAnimethonでは今年25周年の記念として、過去10年分のAMVコンテストの中からさらにMVPを選ぶ投票が行われていました。
その投票で十年間のトップに選ばれたAMVがこちら。
受賞セレモニーでの大スクリーン再生でもファンは皆大爆笑の大喜び。
こちらYouTubeでもAMVジャンルの中では最多の再生数を誇っている欧米アニメファンに大人気のAMVですが、
欧米アニメオタクの好む「アニメ的」要素(つまりは「なにこれ」感)が誇張され過ぎていて、日本のアニヲタの感性とは少し離れているかもしれません。
……でも、このハチャメチャな作風、どことなく既視感がある気も……
ポプテピピックはアメリカで人気なダークユーモアアニメに通ずるところもあり、北米でもでもそれなりの人気を誇ったようで、
2018年3月に自分が訪れたハワイのアニメイベントではコスプレイヤーさんも多数見かけました。
(残念ながら8月カナダのイベントでは見かけませんでしたが。)
AMVについては他にも複数のアニメの海の場面を組み合わせた映像など、Crossover(複数アニメ作品の合成・組合せ)を得意とする北米アニメファンの創作力がきらりと光っていたように思います。
それから多数のファンパネル。
アメリカのアニメコンベンションのどこが好きかと聞かれたら、私は「ファンパネル(と呼ばれる、有志のファンが自分の好きなものや研究について自由に発表するプレゼンテーション)があること」と答えます。
AniRevo、Animethon、それぞれ約100ものファンパネルが開かれていました。
Animethonのファンパネルリスト→https://animethon.org/fan-panels
北米のアニメイベントでは、人気のバラエティショーをキャラクター(のコスプレイヤー)が再現する、という企画も多く見られます。
今回Animethonにあった「Karasuno Drag Race」というファンパネルは「RuPaul’s Drag Race」という、ドラッグクイーンが頂点目指して競い合うリアリティ・ショーをモデルにハイキューのキャラクターでその番組を再現した企画。
Anime Jeopardyも、アニメコンベンションやPodcastでよく見かけるパネル。
ジャンルと難易度を選んで質問に答えてゆく参加型クイズ番組「Jeopardy!」形式の企画です。
AniRevoでオーガナイザーさんにお勧めの企画を尋ねたところ、「Swimsuit Contest」との返事が。
ちらっとのぞいてみたのですが、これがなかなかにすさまじかった。
この企画では一般参加者が奇抜な水着を着てステージ上に登場(ありのままの自分自身でもいいし、コスプレ・変装して他人になりきってでも大丈夫)、ステージ前に置かれたマイクに、「我こそはこの人に質問してみたい!」という他の参加者が一列に並んで質問します。
たとえば女性がトランプ大統領のコスプレをして、女性ものの水着を着て、他参加者からの朝鮮情勢についての質問にジョークで返したり。
参加者全員に圧倒的アドリブ力とコミュニケーション能力が求められますが、そこは皆さんさすがとしかいいようがないノリのよさ。かなわないなあ。
それにしても。
海外のアニメイベント行くといつも思うのですが、優しいですね、参加者みんなが。
自分の「好き」に正直でありながら、知らない他人を仲間として応援しよう、というコミュニティ感があふれている。
続いてのパネル。
ザ☆北米のコンベンションだな~と思わされる自由さ突き抜けたパネルが、
AniRevoで開かれていた「Yuri on Ice Booty Chronicles」
ユーリ!!! On ICEのコスプレイヤーたちがパーソナリティとなり、ユーリや様々なアニメの登場キャラクターの尻だけをクロップしたスライドショーを見ながら、この尻は形がいいとか、100点中何点だ、と議論するパネル。本当自由でオープンです。
ちなみにこのパネルはR18企画でした。北米のアニメイベントは真夜中まで続くのですが、
夜間開催のイベントの中には赤裸々にエロを押し出したものも多く、そうしたものには年齢制限がもうけられて、身分証をチェックされます。
北米のアニメコンベンションでは、こうしたR付のパネル内で、俗にhentaiと呼びならわされる成人向けアニメが流されることも多く、自分は昔留学中にそうしたものを見て初めて、この世の中に成人向けのアニメというものがたくさん存在することを知って驚いたのでした。北米だとアニメとはそういうジャンルも含むものだというのが当たり前の認識のようです。
また、残念ながら自分では参加できなかったのですが、Husbando Battle! というファンパネルがとても気になりました。
Husbandoというのは「husband(夫)」という英単語の日本語風発音をあえてそのまま綴ったもので、日本語に訳すなら「推し」でしょうか。
同じく、「俺の嫁」は「Waifu(Wifeの日本語風読み)」と言われ、海外のアニメファンと話していると、「ワイフ~ワイフ~」とわざと日本人風の下手な英語で叫んでいるネイティブオタク達をたくさん見ることができます。
このBest husbandoという企画、企画の説明文から推測するに、参加者がオーディエンスに向かって、いかに自分が優れた「推しメン」となりうるかをアピールする、というものだったらしいです。気になる。
なお、女性版のMoe Battle 2018というのも開かれていました。
いくつか参加してみたパネルの中に「Doki Doki Literature Club」というものがありました。
開場前から長蛇の列ができるほどの大盛況だったこちらは、2017年秋に発売された欧米発の同名ゲームに関するパネル。
恋愛ゲームの皮をまとったサイコロジカルホラージャンルのこのゲーム、北米を中心にアニメオタクの間で大ヒット中だそうです。2018年のSXSWのゲーム部門「マシュー・クランプ文化イノベーション賞」も受賞しています。
かわいらしいキービジュアルと、アニメ風のイントロからスタートしたパネルセッション。
しかし作品紹介の途中でパワポスライドにバグが起きたような演出(パネリストが次のスライドに進もうとしても「Monika…Monika…」という文字ばかり画面に出てきてしまう)が入り、この作品、ただものではないぞ……と内容をググってみて度肝を抜かれました。
詳しくはネタバレになるので控えますが、気になる方はご自身でプレイしてみるか(自分がそれに見合うと思った金額を支払うPWYWという形式。日本語版パッチもあるようです)ネタバレ考察サイトなどお読みになってみると面白いかと思います。
あと会場を歩いていて気になったのがFGO。
日本で爆発的人気を誇るFGO、もちろん現地でもコスプレ合わせがあったり、「Chaldea Master Summit」と呼ばれるパネルイベントが満員御礼で参加者の入場制限をしていたりと、北米での人気のほどをうかがうこともできたのですが、日本での人気と比べると、ファンの規模がアニメファン全体の中でのパイとして見たときに小さいように感じました。Artist Alleyのポスターのラインナップでもあまり見かけず。
現地のオーガナイザーさんに尋ねたところによると、電車通学・通勤の文化がない北米ではモバイルゲームより依然コンソールゲームの方が人気があり、ゆえにFGOのプレイ人口もそこまで大きくないとのことでした。でもこれからまだまだ伸びる予感です。
④カナダの素敵コスプレイヤーさんたち
以下はアニメイベントで見かけた素敵なレイヤーのみなさま。
Animethonは超大規模イベントというわけではありませんが、アニメファンの草の根の活動と、日本から声優を招いてのゲストイベントやライブも行うオフィシャルな側面と、両方をバランスよく併せ持った居心地のよいイベントであると感じました。
カナダは自然と都会が調和したそもそもの街並みがとても素敵なので、イベント参加はもちろんですが、普通に旅する目的で行くのも楽しいかもしれません。
次回は自分の真のもう一つの目的、鉄血のオルフェンズ聖地巡礼記について書きたいと思います。
コメント